残念能力は日常の中で。*寒くない能力*

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58歳、独身。 みっともなくて放言するのも憚れるが、素人童貞である。 恋愛をした事が無い。 生涯する事もないだろう。 仕事をしていた。 無趣味で、遊ぶのにも慣れていなかったから。 今はもう遠い過去、バブル期。 周りが恋だの愛だの浮かれてる間、俺はただ仕事をしていた。 若いうちに親父が亡くなり中卒で就職。勉強自体は嫌いではなかったので働きながら資格をとり、親子2人なんとか食いのびてきた。 仕事して、仕事して、仕事して。 飯食って寝て、それを繰り返しているうちに年とって、数年前におふくろも亡くなった。 俺はきっと横着だったんだろう。 なんとなく生きてるだけの毎日。 何とかしておふくろに孫の1人でも拝ませてやろうなどと、そんな事も考えずじまいだったし、今に至っても別に親不孝をしたとは思ってない。 親父だって何となくおふくろをあてがわれただけ。 戦後という時代に推されて結婚しただけ。 親父も相当な朴念仁だったから良く似てしまったのだろう。 何事にも興味を持たず淡々と生活する人間。 でも、そんなつまらない人間の遺伝子は、今の世にはきっともう要らないのだ。 妻があれば違ったか、子があれば変わったか。 いや、変わらないだろうな。 俺は親父に、良く似ているから。
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