偽装世界

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「おめでとう!」  大会のスポンサーはいくつかの大企業だった、メタバースに設営された非現実的な華々しいステージの上で俺達のアバターは優勝トロフィーを受け取り、続いて各企業から選ばれた審査委員の総括、質疑応答が始まる。 「流行りの剣と魔法の世界では無く、現実同様の世界観の方が進化速度が速かったとは驚きです、これはやはり意図してそう設定したのですか?」  ブラウン管タイプのモニターが頭に付いているロボットみたいなアバターにフォーカスが当たる、画面に映っている顔は審査員本人のものだろう、いかにもなメガネをかけた外国人だがメタバース内の会話は同時通訳され俺たちの耳に届く。  AIの翻訳は凄い、嫌味ったらしい表情にマッチした嫌味ったらしい声色だ。 「いいえ、引退(・・)してしまった先輩がボーナスポイントを使いまくった結果そうせざるを得なかったのです」 「なるほど、意図してはいなかったが結果としてそうなった訳ですね?」 「あ、いえ…」  優勝したのに何だかあら捜しをされているようで、俺は口ごもった。 「それでも僅かに残っているボーナスポイントを使い、最善の一手を繰り出したと思っています」  いっこ下の後輩義明がズイッと前にでてそう答えた。 「決して運とかビギナーズラックとかでは無く実力だ…と」 「そうです、ファンタジーの世界も魅力的ですが魔法の無い世界で我々はこうして発展を遂げている、良いお手本にした、と言う事です」  家庭用ゲーム機でも販売されている、シミュレーションゲーム「シムタウン」何処かの馬鹿げた天才が「スーパーコンピューターを使って銀河をシミュレーションしてみよう」と考えた。  それは口づてに広がり、大学等の研究施設にあるようなスーパーコンピューターを使って贅沢すぎる遊びが始まった。  そして、いくつかの基本元素と重力などが設定された基本プログラムを元に核となる恒星系を選んで惑星を発展させる競技が開催された。 『第一回 シミュレーション オブ ギャラクシー』  記念すべき第一回大会優勝の栄光は我々の頭上に輝いた…。 「なるほど、何事も模倣からと言いますからね、しかし、戦争や環境破壊まで模倣させる必要は無かったのでは?」 「アレは模倣というか、AIの社会が複雑化した成長の証だと判断しています、それにより絶滅するのか対応策を見つけるのか、私達は静観を決めました、その結果、私達の『人類』は解決策を見つけさらなる飛躍を遂げたのです」 「なるほど」  いくつかの質疑応答が交わされたが、どれも俺たちの優勝を望んでいなかったような皮肉たっぷりの質疑ばかりだった…。 「それでは、さらなる進化を楽しみにしています」  MCの言葉でセレモニーは締めくくられた。
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