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「ほんと、更科先輩って何処行っちゃったんですかね?」
大学の研究室ではSOGのステータス画面を開きながらメンバーだけのささやかな打ち上げが行われようとしていた、一応は世界大会優勝なのだが、このゲームはプレイしているのが超高額のスーパーコンピューターを保有する施設のさらに極一部の人間しかいないいわゆるマイナーゲームなので打ち上げには教授達すら参加していない、多分そんな大会があるって事自体知らないんじゃないか?
それでも世界大会が開かれるのには訳がある、それはゲームのプログラマーにも予想もできなかったバグのせいだ、このスーパーコンピューターの中には、0と1のデジタルで構成されてはいるが我々が住む世界と物理の基本原理は変わらない惑星がコンピュータの中で『現実に存在』しているのだ。
単純な疑似生命体から複雑に進化を遂げることが分かった、それはあたかも進化の過程を目の当たりにしているようだった、そしてゲームの世界に人類が誕生した、その頃このゲームのプレイデータが現実世界にフィードバック出来るのでは?という実験結果が出たからだ。
物理の基本原則は変わらないのに『魔法』を使えるようになり、その原理を解き明かせば『現実世界でも魔法が使える?』と考えられ、日本以外の大学ではこぞって『剣と魔法の世界』の謎を解き明かそうと躍起になった。
ゲームの世界大会が企画され規定が設けられた、遅ればせながらウチの大学でもチームが発足し『剣と魔法の謎』に向かったが。
「めちゃくちゃやりすぎてたからな〜あの人」
モニター画面では緑色の点がピコピコ動いているだけの殺風景な画面だが、後付けのプログラムによりグラフィックを強化してVRシステムを使えばゲームの世界に入り込むことが出来る様になった、居なくなった先輩はVRの世界にどっぷりハマり、ゲームと現実の区別が付かなくなるほどの障害を発症した。
表向きは入院している事になっているのだが、実際には完全に行方不明、何処で何をしているのか親でもわからないらしい。
「いやぁしかしこいつらが自力で他のサーバーとコンタクトを取れるようになるとはね〜」
後輩の義昭は画面の中の小さな点を愛おしそうに眺める、このゲームはネットワークで繋がっていてコンピュータ同士がひとつの銀河における恒星系を示している、その中で、俺達のデータは自力でスーパーコンピューターの障壁を打ち破り他のコンピュータにアクセスしたのだ。
それはロケットで他の惑星に着陸したって事と同義の事だった。
それは現実世界での転用可能なデータであり、最も優れた進化と称され、俺達の優勝が決まった。
「あ、またバグが出てる…デリートっと」
今やこのコンピュータの中の『人類』は現実の俺達を超えた進化をしている、稀にこのコンピュータの中から『現実世界』の存在に気付いているような『超天才』が現れるようになった。
そいつらは他のドットを巻き込んでゲームの世界をメチャクチャにしがちなので仕方なくデリート作業を行っている、AIとはいえ仮想空間で『生きている』存在を消すことに多少は心が痛むが所詮は0と1で出来ているデジタルの存在だ、シューティングゲームでインベーダーを撃ち落とすのと大差ない事だった。
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