同級生の秘密

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同級生の秘密

【教室で振り返る】  快晴の朝は人々が行動する時刻。一日の始まりを告げる時間。  和気あいあいと学童達が登校し、それを見守る地域のサポーターが笑顔で見送る。  駅に向かい満員電車に乗り、職場に向かうサラリーマンやOL、学生達もいる。  バス停でバスが来るのを待つ人達もいるだろう、保育園の送迎バスに幼い子を送り出す主婦も笑顔で送ってから家事に専念したりする。  始まりの時間、その合間を使って人々は文明の利器でひと時の遊びを行う。  SNSでの挨拶、仮想空間での遊戯、様々な世界の中にそれはある。web小説だ。  web小説サイトは無料登録ができ、誰でも作品を公開できる気軽さ、評価のつけやすさなどもあってここ十数年で大きな存在感を示し、出版社との結びつきもあって書籍化、漫画やアニメ化などでさらに知名度を上げている。  当然、名声を得ようと日々切磋琢磨し、サイト内やSNS上で意見交換、激しい論争や誹謗中傷や炎上騒動は日常茶飯事。  もちろん中にはそうした激しい競争を避け、穏やかに趣味として書き続ける者もいる、つらつらと愚痴を連ねて共感を得るものなど、利用者の目的は様々。  彼女もその利用者の一人。小説投稿サイト『エブリデイ』の自分のマイページの通知欄は共感を示すグッドが多く、中には『応援しています!』や『続き楽しみにしています!』という称賛のコメントもあり、心が暖かくなる。 (みんなありがとうございます。今日も頑張ろーっと)  スマートフォンをブレザーのポケットに入れて電車を降り、人の流れが落ち着くのを待って彼女はホームから外へと出て登校。  彼女の名前は金澤(かなざわ) 美咲(みさき)。サイドテールの赤い髪が歩く度に揺れて色艶良く光を返し、少しだけ人との距離をおいて彼女は進む。  途中、同じ制服の学生達の流れとは違う道へ入り、迂回するようにして自分が通う学校へと到着する。 「おはようございます」 「おはようございます。はい、通っていいですよ」  女性警備員に学生証を見せて美咲が進むのは学校の裏門、そこからすぐの小さなエントランス。  明星金麗(めいせいきんれい)高校。数年前に校舎が完成し、今では有名高校に名を連ねる程に成績・風紀においても高い評価を獲得し、教育方法はもちろん生徒や保護者に対するサポートは万全。  志望大学・専門学校の合格率、卒業後の就職率全てにおいて100%と恐るべき数字を叩き出すこの高校には、問題を抱える生徒達が通う特別クラスが存在している。  彼女もその一人。表門から見える大きな校舎の裏側にあるもう一つの小さな校舎、そこが彼女のクラスがある場所。  人の気配はあまりない静かな空間、一般生徒と関わることがない聖域とでも言うべきそこは、能力的には優秀だが普通のクラスに馴染めない生徒達が通う。  通信制高校とは異なる選択肢。それでいて個別学習、数人のクラス等個人に合わせた教育カリキュラムが完成され、試験的に導入されているが確実に成果を出し生徒・保護者からも評判が良い。 「お、おはよー」  美咲がついた小部屋は2列縦3の机が並ぶ少人数クラス。が、誰もいないので挨拶は虚しく響くだけ。  何かと問題点を抱える生徒達が通う為に登校時間ギリギリというのは当たり前、しかしそれをマイナスとせず、長所を伸ばすのがこの特別クラスの方針だ。  美咲が座るのは窓側の一番前の席。いつものようにカバンを机に置いて、それから部屋の後ろにあるロッカーから今日使う教科書を取り出して席へと戻る。  机の中に入れて、それが済んだら再びスマートフォンを取り出して小説投稿サイト『エブリデイ』のマイページを確認。 (今度のコンテストの作品どうしようかな……)  小説投稿サイトには大きな賞を狙えるコンテストもあるが、気軽に参加できる小規模なものもある。  美咲が使う『エブリデイ』は小規模なコンテストを定期的に開催しており、特に短編小説に力を入れているサイトだ。  参加しようとしてるコンテストの題材は初めての〇〇。初心者として何かを始めたり、初めての体験など、題材に沿ったテーマを書いて公開する。  スマートフォンをあごに当てながら天井に目を向け、椅子によりかかりながら題材にあったものを考える。と、浮かぶのは先日のある出来毎。  買い物をして帰る途中、背筋が凍りつくような感覚に襲われ振り返ると、そこには巨大な金属のネズミが目を光らせ佇む。  誰も見えていない、誰も気づいていないその怪物は、自分を見るなり襲って来た。  どんなに逃げても追いかけてくる、助けてくれと叫んでも、怪訝な顔をされて素通りされてしまう。  昔から自分はそういう人間だから、と、諦めかけて、それでも最後に辿り着いた場所で見かけた人影に助けを求めて、救われた。 (あれは、望月くん、だよね……)  自分を助けたのはクラスメイトの望月(もちづき) (ゆう)。顔は知ってるが、話した事はない。  名前を呼ばれ、優は驚いた様子で慌ててその場から走り去ってしまったが、その時に落とし物をしていた。  ♣の3のトランプ。手触りの良い質感のカードを美咲はカバンから取り出し、しばし見つめる。  赤い裏地には特にメーカーを示すものはなく、何処か不思議なカード。拾ってきてしまったが、もし本人なら返そうと考えていた。  優はいつも廊下側の最後尾に座る。だが口を聞いたことはないし、と、不安がよぎっているうちに教室の扉が開き、黒のライダースジャケットに黒のレザーパンツにチェーンをつけた望月 優がカバンを肩に背負って入ってくる。  私服登校が許されてるとはいえ、薄いサングラスもかけてる風貌は肉食獣のような威圧感があり、何も言わずに席へと向かう優に圧倒されて美咲は声をかけることができなかった。
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