同級生の秘密

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【クラスメイトの事情】  朝8時半になればチャイムと共に門が閉まり、ホームルームの時間がやってくる。  だが教室には(ゆう)と美咲の二人のみ。やや不自然さを美咲は感じながらも、いつものように教室に入ってくる担任に目を向けた。 「おはようございます先生」 「ん、おはよー……来てるのは金澤と望月だけだねやっぱ。出席はまー、とらなくてもわかるからいいや」  ラフなスーツ姿の女性教諭の明智(あけち) 恵瑠(めぐる)は教卓につくなりササッと出席欠席の欄を書き、小さく息をついてから改めて美咲、優の順に顔を見てから再び美咲に目を向け、ある事を訊ねた。 「金澤は最近、変な事起こらなかった?」 「いえ、特に何もないです」  ありました、と、言うには昨夜の出来事はあまりにも非現実的で、次いで同じ質問をされた優も『別に』と素っ気ない返答をする。  恵瑠もまた『そう』と同じように返して何かを思案し、美咲が質問を投げるよりも先にある事を話してくれた。 「東海林(しょうじ)とか成宮とか、休んでる四人はみんな似たような理由で休んでてさ、皆直前に変なものを見たって言ってたんだ。二人はそーいうのなさそうだから安心したけどね……気をつけるんだよ」  変なもの、というのがあの化け物の事なのか。美咲は本当の事を言うべきだったかと思いつつ、同時に、自分を助けてくれた優の事も考えた。  クラスメイトが次々に休む理由、それを知ると無関係とは言えない。だが、話したところで信じてくれるのか? 脳裏にかつての記憶が蘇り、何度も言われた言葉が反響し始める。 (そうだよね……信じて、くれないよね)  深呼吸をしながらそう自分に言い聞かせて恵瑠にはにかみ、そんな美咲の後ろ姿を優はサングラス越しに見つめていた。 ーー  二人だけの教室。授業はいつも通り行われ、特に暗くもなく明るくもなく、淡々と進む。  クラスメイトがちょっと多めに休んでる以外は、いつもの日常と変わらない。が、やはり美咲は昨日の事をふと考えてしまう。  あの金属の大きなネズミのような化け物に襲われてしまったら、自分も通えなくなってしまったのか。もしくは、命がなかったか。  そこを優が助けてくれた。今、自分の後ろでやや気だるそうに黒板に書かれてることをノートにはとっている、話した事もないクラスメイトが、。 (終わったら、話しかけてみよう)  ホームルームから授業の間の時間に話そう、授業と授業の合間の休憩時間に話そう、と美咲は思っても中々動けず、既に三限目の終わりが近づきつつある。  そしてチャイムが鳴って授業終了。数学担当の先生がいなくなってから美咲は何度も深呼吸し、いざ、と、席を立ち上がって前に顔を上げた時、サングラスをかけた優の顔が目の前にずいっと現れ、ビクッとして大袈裟に仰け反ってしまった。 「ななななななになに望月くん!?」 「話がある」  優の方から話を切り出して来たのは美咲も大いに驚きつつも、空いてる席の椅子をとって自分の前に座る優がサングラスを取る。  その下に隠されていた、何処か凛々しくも線の細い優の顔つきに目が奪われた。 (あの時と、同じ……やっぱり……)  昨夜の邂逅が確信に変わる。やはり、あそこにいたのは目の前にいる望月 優に間違いないと。  席に座り、ビニール袋からパンを取り出し口に咥えた優に、美咲は拾っていた♣の3のカードを差し出し、優も目をやや大きくしてそれを受け取りもぐもぐと口の中のパンを食べ切る。 「……お前、霊視できるだろ。隠さなくてもいい」 「れ、霊視? えっと……」 「幽霊が見える事、だ。昨日、俺の姿を見れたこと、あのバケモンが見えてた事……それが証拠だ」  パンを再びかじってもぐもぐと食べる優が見抜く美咲の秘密。  と、チラリと目を向けた優は口を止め、ポロポロと涙を流し始める美咲に驚きを隠せず、すぐに『ごめんね』と言った彼女がハンカチで涙を自ら払う。 「わ、私のその事をみと、認めてくれた人……両親以外だと、は、初めてで……ずっと、誰も信じてくれなくて……」  物心ついた時には既に見えていた。亡くなった人物の姿を、話しかけてくる事もあって普通に対話もし、そしてそれが、多くの人から拒絶された。  何気ない一言に美咲の心は少しだけ軽くなり、深呼吸し直して改めて優を見つめニコリと微笑んだ。 「ありがとう、望月くん」 「……別に、大した、ことは、言ってない」  目をそらしながら紙パックの牛乳を飲む優は何処か可愛らしく、子猫のようにも見えて美咲の心も暖かくなる気がした。  昨夜会ったのが優本人とわかり、そうすると、新しい疑問も浮かび上がる。 「望月くんは、どうして助けてくれたの? 何を、知ってるの?」 「……さぁな」  知っていて遠ざけようとしてる、というのは何となく美咲にもわかる。似たような場面は小説でも描いた事があるから。  不器用なのだろう、だがここで引き下がれないと意を決して目に力を灯すと、察したのか優の方から静かに話してくれた。 「悪霊、っていうと少し違う。あれは残留思念がそうなったってだけだ……長くなるぞ、いいか?」  昨夜の事、そしてクラスメイト達に何が起きているのかを。自分が何者かも含めて優は話す決心をしたようだ。  その意を汲んで、美咲は小さく頷きクラスメイトの知られざる事情を知る事となる。  
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