同級生の秘密

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【転生と転逝】  人は何かを閃き、それで創られたものが多くの人々の心を動かして前へと進む力になる。  閃きは落ちてくる、と表現する者もいる。ではそれは何処から来るものなのか?  「いいか、寿命以外で死んじまった奴の魂ってのは誰かの閃きとして落ちてくる。それを転生者(チェイン)と呼び、そうなる事で創られたものが転生先、意識はなくても確かな存在として残り続ける、で、そいつの未練とかが昨日の化け物……転逝態(レガシィ)と呼んでる悪霊になるんだ」  転生者(チェイン)転逝態(レガシィ)、ノートに描いた絵を使ってるのもあり(ゆう)の解説は美咲も理解できた。  理解はできたのだが、絵に使われてるずんぐりむっくりの丸くて顔文字みたいな顔のシュールなキャラクターの方が気になってしまい、そして見覚えがあるので思わず触れてしまう。 「あの……なんで、もわ大明神? 望月くんも知ってるの?」  シュール極まりない不思議なキャラクターの名前はもわ大明神。とある小説サイトの変わった利用者が創り出した、とされる一部では有名なキャラクター。  美咲の質問に優は一瞬言葉を詰まらせるも、小さく咳払いをして話を押し通す。 「で、だ、転逝態(レガシィ)はほっとくと元になった奴の関係者とか、関わり合った場所に悪さして自分がいた事を残そうとする。だからそれを鎮めてやる存在、転葬者(トランサー)がいる、俺はその転葬者(トランサー)で、昨日もそれをしてた」  壁に落書きをするもわ大明神、それを懲らしめるもわ大明神のイラスト。優が真面目に説明してるのと相まってシュールさが際立つが、とにかく、と、気持ちを切り替えて美咲は説明を自分なりに解釈してみた。 「えっと……つまり、転生した人……転生者(チェイン)の遺した物が転逝態(レガシィ)で、それを転葬者(トランサー)の望月くんは退治してる。でいいんだよね?」 「大体それであってる。ただ普通の奴には転逝態(レガシィ)は見えないし認識もできない、転葬者(トランサー)も同じ状態で鎮めてるんだが……金澤のように見える奴もいるから、そのケアをするのも役目の内だ」  なるほどと納得する美咲だが、ここである想像をしてしまう。  転逝態(レガシィ)が見える者のケア、というものがそのままの意味なら良いが、悪い方の意味ならばどうだろうか?  そもそも優の話は突拍子もない、仮に真実だとしても本人にとっては秘密と言えることを簡単に明かすのか?  半信半疑な所はある、が、やはり昨日の体験をしてしまうとそれを嘘と断定するには材料が少ない。 「何で話したかって顔してるな」 「えっ、あ、ぁぁっと……はい」  考えが表情に出てた事に美咲は肩を小さくしながらやや俯くも、優が少し呆れ気味にため息をついたところから想像してるような心配はないとわかり、ほんの少し安心できた。  天井を見ながら少しの間を置き、優が話を切りだそうとした、その時。  背筋が凍りつくような感覚を美咲は感じ、同時に優が手を掴んで立たせるとそのまま手を引き、廊下へと連れ出す。 「外に行くぞ。ここだと他の奴を巻き込む」 「う、うん……」  理由はわからない、考える暇もない、確かなのは優の言葉に心温まる感覚と、掴まれた手から伝わる確かな感情が自分を動かすと美咲は理解する。  促される形で下駄箱で靴に履き替えて外へ。幸い今の時間は校内であれば自由に出れるし、校舎の裏側へと優は美咲を連れて辺りを確認。  誰もいないのを確認してから手を離し、ゴソゴソとジャケットのポケットから何かを取り出して手渡した。 「そいつを腕につけとけ、何かあっても防げる」  優が渡したのは黒のリストバンド。意外と腕にピッタリと合い、赤い鳥のシルエットの刺繍がよく目立つ。  片や優はトランプケースを開け、連なるトランプが包み込む中で一瞬青く炎が燃え上がり、赤紫色のベストと黒のワイシャツを着こなすカジノディーラーを思わせる姿へ。 (昨日と、同じ……)  美咲は背筋の寒気が強くなった事で気を引き締め、優の傍らへすぐに寄り添う。  金切り声のようなそれはおぞましく、校舎の上から優の前へと土煙を巻き上げ降り立つのは全身にトゲを持つ巨大なハリネズミ。  鈍色の光沢を持つ身体は、昨日のネズミの化け物と同じ。それが転逝態(レガシィ)と呼ばれる、悪霊。 「やっぱり来たか」  トランプケースをベルトのバックルにセットした優の言葉に、美咲はふと疑問に感じた。  転逝態(レガシィ)は元になった人物の残留思念の悪霊。それが襲ってくるというのは知り合いの思いが牙を剥いてるということ。  だが、美咲にはそのような相手は心当たりがない。身内はもちろん元々友達など少なく、それこそ、強い思いを懐かれる相手など浮かばない。 「やっぱりって……どうして、私が……」 「話は後だ、説明もちゃんとする。今はそこにいろ、いいな」 「そこにいろって……望月くんは、戦うの? 駄目だよ、逃げようよ」  逃げようと思うのは普通の反応。化け物を前にして、後退りするのも自然。  だが優は前へと出る。恐れもなく、怯えもなく、ゆっくり進むその後ろ姿を目の当たりにした美咲の足も止まり、ほんの少し、一歩前へ。   「逃げて済むならいい、だが前に進まなきゃ開けない道だってあるんだ。真実知りたきゃ待ってろ、俺が、守ってやる」  初めて話すような相手なのに、その言葉に美咲の心が動く。  前へと進む事で開ける道、いつか誰かも言ってた気がした言葉が彼女に留まる事を、優の言葉を信じる事を選ばせた。  
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