同級生の秘密

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【転葬者】  どんなに荒々しくとも彼らは見えない。  どんなに恐ろしくとも彼らは見えない。  どんなに近づいても彼らは見えない    それが転逝態(レガシィ)と呼ばれる存在、転生者(チェイン)が残した負の遺産。  それを屠る転葬者(トランサー)たる(ゆう)は今、目の前にいる巨大な金属のハリネズミのような転逝態(レガシィ)と相対し、静かに息を吐いてバックルに手をかけカードを引き抜く。 (◇の9か……様子見にはいい)  チラリと一瞬だけ後ろの美咲に目を配ってから優は指に挟むカードを絵が転逝態(レガシィ)の方へ見えるに構え、次の瞬間にカードより青白い炎の矢が放たれ転逝態(レガシィ)の顔面にヒット。  爆発、炎上して煙で包むが首を横に振る転逝態(レガシィ)にはダメージはほぼなく、目つき鋭くなった転逝態(レガシィ)が針を立てて威嚇の声を上げた。  まずは注意をこちらに向ける事ができた。ここまでは優も想定済みで、燃え尽きる◇の9のカードを捨てつつ次のカードへと手をかける。 (♡の4……都合よく来ないか)  左方向へ走れば転逝態(レガシィ)も追って走り、すぐに追いつかれそうになるが急停止してその場でジャンプ。  転逝態(レガシィ)の頭を踏み台にしてさらに跳躍し、針を上手く避けながら裏側へと降り立つ。  と同時にさらにカードを2枚引き抜いて確認、舌打ちと共に先に棄てられ燃えゆくのは♠の2と♡の10。  好機を逃した事で転逝態(レガシィ)が反転、全身の針をピンと立てるとそれがまるでミサイルの如く発射され、孤を描きながら凄まじい速さで四方から優へと迫った。 「望月くんっ!」 「安心せい小娘、あの程度捌けぬ奴ではない」  身を乗り出し駆けつけかけた美咲を止めたのは艶のある女性の声。  しかしキョロキョロ見渡しても人の姿はなく『頭の上じゃ』と言われると、ほんの少し重みを感じそっと手で何かを捕まえ目の前に運ぶ。 「っ!? こ、コウモリ!?」 「落ち着かんか! 別に害などないわ!」  美咲が掴んだのは赤い布を巻く喋るコウモリ。慌てて投げ捨てかけるが、コウモリの言葉で何とか落ち着き、恐る恐る手を話すとパタパタと目の前で滞空する。 「えーっと……」 「(くれない)というものだ。優の……そうさな、師匠で保護者だ」  (くれない)と名乗ったコウモリが優の名を出した事でハッとなり、美咲は改めて優の方へと目を向ける。  無数の針が突き立つ中に砂煙が巻き起こっている。優の無事は見えない。  ギロリと転逝態(レガシィ)の目が美咲の方へと向けられ、ずしっ、ずしっと重い足運びでゆっくり近づく。  怖い。だが、美咲は何故か逃げなかった。いや、信じられたから。 「優、はよ片付けんか」 「うるせぇよババアが……」  砂煙が渦を巻きながら霧散し、中より姿を現すのは♡のA、3、Jを手に持つ優の姿。  透明な青い膜のようなもので包まれる優がカードを手放すと青い炎となって灰となり、膜が弾けると共にバックルにかけた右手が青炎を纏い燃え上がった。 (望月くん……)  空気がビリビリと震え、燃え上がる姿からは熱さではなく凍えるような冷たさがあり、転逝態(レガシィ)を捉える眼差しは鋭く雄々しく激情を秘める。  威圧感とはこういうものなのだと美咲は感じられ、振り返る転逝態(レガシィ)も怯えてるのか数歩下がり身体を震わせていた。 「終わらせてやるよ、この引きで!」  ぐっと力を込めた指で掴んだカードを優が一気に引き抜き、右腕の炎が燃え尽きると共に横目で5枚のカードを確認。  ♠の3、4、5、♣の6、7。連なる数字が導く力。一纏めにしたカードをばっと投げ捨てると円を描くように優の周囲をくるくると回り始め、駆け出す優に合わせて回転を早めていく。  転逝態(レガシィ)が鳴きながら俊敏に動き、身体を丸め転がりながら迫るのに臆せず優は走り、右手を前に出すと周囲を回るカードが一枚、また一枚と重なり合い、青い炎をまとい優の手に炎の刃を作り出す。 「理貫く整数の列、我が手から疾走り真実を導け!」  小さく飛び上がりながら勢い良く右腕を振り下ろし、放たれる青炎の一閃が転逝態(レガシィ)を通り抜ける。  優に激突する間際に左右に分かれ転がりながら転逝態(レガシィ)は青い炎に包まれ、優の右手の炎が消えると共に天へと昇り浄化され消えていく。
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