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 ある時、図鑑に挟まれた花を見つけた。ずいぶん色褪せていたが、紫のシオンだとわかった。 「そうすると曲がりなりにも、時が止まったようになるだろう」  古い新聞の切り抜きに丁寧に挟んだ花を、アストさんは慈しむように眺めた。  その夕方、私は庭の花壇からセージの花を摘み、辞書で押し花にした。 「セージは色が変わりづらいそうです。紫の花がお好きなのかと…」  栞にした花を差し出すと、主は細く白い指で受け取って、じっくりと見つめた後、 「ありがとう」  初めて、私の頭を撫でてくれた。  訊けなかったけれど、図鑑や辞書にあった花言葉を、アストさんは知っていたんだろうか。  シオンの〝忍耐〟や、セージの〝尊敬〟を。
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