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【5】
アストさんは、出会った日から五年経っても、全く外見が変わらなかった。
髪も爪も背も伸びている様子はない。死なないという言葉が現実味を帯びてくる。
本人はそういうものだからと平然としているけれど、昨年、私が背を追い越した時の、どこか悲しそうな顔をよく覚えている。
並んで立つと、アストさんの旋毛が見えるようになった頃、
「その呼び方は止せ。アストで良い」
そんなことを、突然言われた。
私は窓を拭く手を止め、ロッキングチェアから外を眺める横顔に意見を返す。
「ご主人様と呼んではいけないと仰るから、アストさんとお呼びしてきたのです」
「僕は君の主人になった覚えはない」
唖然とする私を流し目に一度見て、アストさんは膝に乗せた本を閉じた。
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