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【Ⅰ】
ある初夏の月夜、庭の野薔薇の陰に、子どもが立っていた。年の割に、仕立ての良いシャツを着た少年だった。
僕に気が付くなり肩を跳ねさせたが、暗がりの中、少し顔を伏せて言った。
「頼みをきいてはもらえませんか」
「断る」
言い終える前に返すと、
「お願いします」
と、深々と頭を下げて食らい付いた。
面倒だが手ずから摘まみ出した方が早いと、幾らか歩み寄った時、野薔薇に隠れて男が寝ているのが見えた。
痩せた大柄の男は、掘られた穴に横たわっていた。
月明かりが差すと、少年の手に握られたスコップが光った。園芸用の小さな品だ。
僕が再び口を開く前に、彼はスコップを地に落とし、男の寝る穴へと降りた。
「私を、この方と一緒に埋めてほしいのです」
僕は大きな穴と小さなスコップに一瞥くれて、答えた。
「僕の庭は墓地ではない。」
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