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「奴隷の私を、旦那様は家族のように扱ってくださいました。旦那様に買われなければ、私は今頃、字も読めず、ろくに服も着ていなかったでしょう」
長患いで痩せていたとはいえ、男の背は僕より頭二つは大きい。
僕の胸までしか背丈のない華奢な少年が、大人の足でも数十分かかる距離を引き摺って来るには、どれだけの苦労があっただろう。
この亡骸は、彼がそうまでして遺言を守ろうとする事を、解っていたのだろうか。
「…一様に身勝手なものだな、主人というのは」
吐き捨てる僕に、少年は噛み付くような口を利いた。
「旦那様は、私を案じてくださったのです。旦那様がいなければ生きていけないと、わかっておいでだったのです」
十二、三と思わしき彼の濡れた眼には、諦めが宿っていた。
僕は、この眼を嫌というほど知っている。
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