【4】

1/2
前へ
/33ページ
次へ

【4】

 お屋敷には、寝具も食器も揃っていたけれど、どれも長い間使われていないようだった。  主が使うのは、二階の書斎のロッキングチェアと、壁一面の棚を埋める本くらいだ。いつも窓辺で読んでいるから、きっと、あの夜もそこから私を見つけたのだろう。  お屋敷に人が訪ねてくることはなかった。近所に家もなく、郵便も来ない。  私が掃除や庭の手入れを終え、次の仕事を探している時には、よく本を貸してくれた。  どれも難しかったけれど、辞書を手に一所懸命覚えた。せめて、話し相手になりたかった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加