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AM08:50 開店準備
かりがり、がりかり
桜模様を召す私は、実はそれしか能が無く
ずりがりずずず
少し引っ掛かり
がりり、と
脈絡のないテンポ、弾けるような香り。マスターは、私を店に置いてくれてからずっと、その慣れた手つきに皺を添えるまで。
一切の音楽を流していない。
なぜなら、私が全てのメロディを担うから。
「今日も変わらず、素晴らしい出来だ」
奥様に先立たれてから、長いことこの珈琲喫茶『スリジエ』を営む、私の雇い主は微笑んだ。
営業中に、私が毎回珈琲豆を挽くたび、声に出しているわけではない。だけど相応な時間、仕事場で彼は表情を向けてくれる。何の意味合いかは、すぐ分かってしまうもの。
今日も今日とて、欠かさない。
私がこの店で働く、最高の報酬。
カランコロンと、客足のベルが響けば、変わらぬ日常が始まる。
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