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ED00:00 たった1人の『弟』へ
幻を見た
走馬灯を見た
何が正しいか、分からない。
『ありがとう
そして、おめでとう
貴方の新たな門出を
マスターも私も、願ってます』
長年『看板娘』を続けた、コーヒーミルから伝わる記憶。たどたどしくもあり、それでいて。
築き上げてきた、親父の功績が、眩しかった。
『店を継ぐ気は無いか?』
最後に聞いた、親父の言葉。
まさか、それが今生の別れになるとは思わなくて。
ふざけるな。
俺は親父みたいな人望は無い。
社会に出てから、自分の生き方が分からなくなっていた。丁度、取引先や上司に頭を下げ続け数日、何もかも疲弊しきった、本当にタイミングが悪くて。
ただ、怒鳴り散らかして電話を切ってしまった。
内容は稚拙で、思い出したくも無い。
でも
親父が居なくなった、今。
おじさんのルーティーンである居場所は
何処にも無くて
周りに葉巻好きが居なくても
笑って聞いてくれた話し相手は居なくて
名も無くメニューにも無い珈琲を
再度味わう機会すら無くなって
「……俺が継げばいいのか?
そんな簡単な話じゃ無いだろ
珈琲すら、まともに作れないのに」
『マスターの後を継ぐ
そんな大層なこと
自分には到底出来ない』
心を見透かされたかのように。
コーヒーミル……親父が『しえ』と呼んだ、桜の看板娘。艶やかな黒髪、枝桜のエプロン姿。
幻であろうが、残像であろうが。
「お前は……何が言いたいんだ」
『マスターにとっては唯一の息子
私にとっては、勝手ながら唯一の弟
……だから
どんな答えを出しても
色んな選択肢を見据えても
口を揃えて、言いたいんです』
おめでとうと。
それが、私達の喜びだから。
だから
『どんな結末が待ってようと
祝辞を述べると決めているんです』
……淡い、おぼろげで
確かに幻でも良かった
今にも消えそうな
桜の君
「……親父は、最初から知っていたんだろ」
しえ
微笑む姉に、居ないはずの父に
ーー背中を押された
俺は
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