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またたっきをどつき倒そうと暴れる耀ちゃんをゆきちんが必死で押さえ込んで、秀ちゃんがはわわっと慌てて加勢へ行った。
今のは完全にたっきが悪いから一発殴られた方が今後の為にもいいと思う。というか、耀ちゃんからはたまには鉄拳制裁喰らっても致し方なしな気がする。
大体の事はまぁ良いかぁって流してしまう俺でも、部屋の中のセンシティブなところを不在時に弟に漁られるのは流石にどうかと思うし。
たっきは俺にはそういう事を絶対にしないからある意味で耀ちゃんをお兄ちゃんとして特別に扱っているって言えばそうなんだろうけど、耀ちゃんは繊細だから弟の部屋に無断で入ったりはしないし、たっきの部屋どころか誰の部屋に入る時でもきちんとノックをして許可が出てから開けてくれる。
因みにたっきとみっちゃんはノックの音とほぼ同時にドアが開くから、ノックの意味とは?って千春君とかゆきちんがよく首を傾げてる。本当にアホらしいところで親子っぽさを発揮するんだよねぇこの二人。
本当に見られたくない、知られたくないって時は各々で鍵をかけておくっていう暗黙のルールがあるにはあるんだけど、試験勉強に集中したくて鍵を掛けてたらドアを悲しげにカリカリ引っ掻いたたっきに「翔平、なんかあったん?構ってやぁ」ってヤンデレ的な絡みをされちゃって、俺は余程の事がない限り部屋に鍵を掛ける事はなくなった。
「そら俺も聞けるもんなら聞いてみたかったんやけどな?たつそろそろ自重せえ」
「ほらー!ミツ君も聞いてみたかったんやんか」
「そら気になるやろー。翔平は可愛ぇけど、可愛ぇって思うんは親の欲目かも知れへんからな。世間一般の皆様をそういう気にさせる程の魔性があるかて言われたらどうなんかなぁとか。なぁ?」
「魔性のゲイて……」
急に話を振られて千春君が左頬を引き攣らせる。
恐らく、千春君は俺の容姿を可愛いとか以前にどうこう考えた事が今までなかったんじゃないかな。
ただの拾った子供から息子に昇格したあたりで見てくれになんて興味は無くなってて、ただ笑って生きていてくれたらそれだけで満点!ってお父さんなんだよ、千春君て。
少し困った顔をしながらゆったりと俺の前に来て、身を屈めて顔をまじまじと眺めてから苦笑いを浮かべる。
なんて言ったもんかって風に暫く困って、それからへらっと笑った。
「見た目はチンパンジー?」
「子ゴリラよか悪いわ!」
思わず突っ込んでしまった。
そんなやりとりを秀ちゃんとゆきちんが微妙な表情を浮かべながら眺めている。
あの人達優しいからなんて言ったものか困っているんじゃないかな。
何度も言うけど、俺は恋愛対象が男性ではあるけど俺自身の見た目や心が女性的という訳では無い。無いけど、まぁ体躯はなんというか……いかにも男性です!って風にガッシリはしていない。生まれつき筋肉が付き難い質だから実際には筋肉もそれなりに着いているし体重も平均並みにはあるけど痩せ型に見える。友達と並ぶと華奢に見えてしまいがちだけども、骨格とかパッと見て分かるくらいにはしっかり男性。
さっきたっきが言った通り声は男性にしては高いけど、女性の柔らかな高音とは明らかに違う。あくまで男性にしては高いというか、小声で話してもよく通るんだ。
顔の造形にしたって涙袋の目立つ瞳はそこまで大きくもないし、ちょっと眩しそうな感じに顰める癖があるくらいで平均的な目だと思う。そこにオシャレというか、趣味で視覚矯正効果の付いたグレーとブルーのグラデーションのコンタクトをつけてる。自分でもなんとなくかまぼこ型に近いかなって思うから、人にはいつでも笑顔を浮かべてるみたいに見えるのかもね。
口元は人と上手くやる為に自分を偽って笑い過ぎてたら笑顔が張り付いて取れなくなった。それも柔和だって人から言われる所以なんだろうけど、理由が理由だけにあんまり嬉しくない。せめてもの抵抗で眉だけは意思を強く見せようとキリリと引いてるけど、そもそも普通の男の子はメイクしないか。
なんにもしなくても男らしくてセクシーな耀ちゃんとか黙ってれば王子様とか言われるたっきみたいな顔に生まれてたら良かったなぁって思った事が無いとは言えない。
たっきがチラッと俺を見てからまた耀ちゃんに視線を戻して「で、どうなん?」ってまた喧嘩を吹っ掛けた。
喧嘩を吹っ掛けてるつもりはないだろうけど、耀ちゃんからしたら十分なんじゃないかなぁ。
これ、公開処刑だよね。
「まだその話続けるんか!」
「こんな機会でもなかったら聞けへんやん。耀ちゃんは兄貴やけど、俺にとっては翔平も気持ち的には兄ちゃんって思っとるから気になんねん。試しに抱いてみたいとかそんなんなのか、めっちゃ愛してて家族や思ってもどうしようもない状態ないのか。そこんとこハッキリさせときたいねん」
思わぬ言葉にビックリして抱えてた鞄を落っことした。
隣に座ってるたっきがいつもの事って風にそれを拾って俺の膝にぽんって置いてくれた。
「兄ちゃん……」
「俺この家来てから翔平とずっと一緒居るし。ずっと守ってもらってるし。翔平泣かされたら俺そいつの事許せへんもん、ぶん殴るわ」
「それ、相手が俺でもか?」
「おん。もちろん相手が耀ちゃんでも。寧ろ全力でいかしてもらうわ」
たっきは言葉の最後にハートマークが見えそうな極上の笑顔を浮かべて腕捲りをしてぐるんぐるん腕を回した。
たっきVS耀ちゃん……物凄く見たくない。
絶対に見たくない光景だよね、うん。
こう!と決めたたっきはとても頑固だし決して引かない。誰がどう見ても負けが確定してる試合があったとして、相手にたっきから自分が与えたダメージと同等かそれ以上のダメージを与えられてしまったって思い込ませて、試合に勝って勝負に負けたんだって無理矢理刷り込んで二度と歯向かわせないタイプだもん。
たっきは相手の心に爪を立てるのが巧い。
対する耀ちゃんは試合だろうがなんだろうが下手な小細工はしないし、出来ない。単純って訳じゃないんだけど、正々堂々の直球勝負を挑まれたら懐にとっておきの切り札を忍ばせていてもそれを切れずに負けるタイプだ。
絶望的な敗北が無いのは人徳か元来の運の良さか分からないけど、あんまり人と争わない方がいいタイプ。
つまりは俺が泣かなきゃいいんだ。
うん。
それは多分大丈夫。
俺、苦痛には強いタイプだから。
今まで俺を泣かしたのはいつだって涙が溢れてしまうほどに優しい気持ちだったから。
極上の笑顔を浮かべて腕をまだグルグルしてるたっきの行動を挑発と受け取った耀ちゃんがまたぐわっ!と怒気を纏う。
耀ちゃんは耀ちゃんで頭に血が昇ると歯止めが利かない時がある。それでも今までは暴力とかは無かったんだけど、それはただ単に耀ちゃんが寛容だったからってだけ。
また秀ちゃんが慌てて二人の間に身を挟み込んで何とかしようとあわあわしてて不憫だ……。
「どうでもええんやけどな」
俺の後ろから元いた食卓の席に戻ったみっちゃんがひらひらと手のひらを空を泳がすように上下に振る。
今にもケンカを始めそうな雰囲気だった二人が条件反射でみっちゃんをの手のひらを目で追う。それがなんだかお母さんに声をかけられた子供みたいな反応に似て見えて微笑ましい。
「そろそろ翔平のストーカーの話に戻してええか?」
「おん。ええよ~」
「……ぉん」
たっきは相変わらず飄々と答えたけど、耀ちゃんはなんだか煮え切らないらしい。
眉間には深~い皺が寄っている。
またギャーンッ!てなったら話が脱線するからか、ゆきちんと秀ちゃんが耀ちゃんを挟むようにしてラグに座った。
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