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オンリー ロンリー グローリー
お風呂を使ってある程度スッキリした俺はその足で千春君と秀ちゃんの部屋へ向かった。
「なぁ~、秀ちゃんはどう思う?」
「えぇ……」
千春君はもうベッドに沈んで寝息を立てていたから、俺はベッドサイドのライトで本を読んでいた秀ちゃんのベッドに潜り込んだ。
一人で居るっていうのがなんだか落ち着かなくて。
お風呂でちゃんとリラックス出来てるはずなのに、途中からなんだかそわそわしはじめてきて俺にしてはかなり早くお風呂から上がってしまった。
洗面で髪を乾かす間もやっぱりソワソワと落ち着かなくて、髪から湿気が飛んだくらいでいそいそとリビングへ向かったんだけど、ドアノブに手を掛けたところでみっちゃんとゆきちんがなんだか難しい雰囲気で二人にしては珍しくボソボソと話し合ってるのが聞こえたから、そっとリビングを抜けてここへ駆け込んだんだ。
ノー天気っていうか、たっきに言わせるとのーみそお花畑な俺は普段なら何かに追い立てられるっていうか、対象も無いのに警戒するみたいな事はしない質だから、らしくもない行動をしてる自覚はあるんだけどね、その理由なんて解り切ってて。
家のカメラは全部撤去してくれたんだろうけど知らない間に誰かに見られてたっていうのがどうにもこうにも……ねぇ?
具体的なカメラの設置場所は聞かなかったから分からないけど、あの写真の事を考えたら耀ちゃんの部屋には誰かが足を踏み入れたわけでしょ?なら俺の部屋はもちろん、どの部屋も可能性がある事になるし、トイレやお風呂なんて他人に見せたいものじゃないでしょ?
それにさっきの耀ちゃんの言葉も引っかかっちゃって。
「耀ちゃんが自分の意思で相手を挑発したって言ったの、なんかおかしくない?」
「まぁ……俺は直接聞いていないから細かいニュアンスまでは分からないけれど」
「その言い方じゃ耀ちゃんだけは最初から盗撮されてるの知ってたか、その可能性があるなら炙り出してやるって思ってわざとやったっていうか、そういう風に感じちゃうんだけど」
「そうかもしれないねぇ」
「それにさっき耀ちゃんからお前とか翔平って呼ばれたし」
不思議そうに首を傾げた秀ちゃんがそれが?って風に俺を見つめる。
うちの家族は耀ちゃん以外全員が俺を翔平って呼ぶから呼んでいる方はその違和感に気がつかないのかもしれない。呼ばれている方はその違和感になんでか落ち着かない気持ちにさせられるっていうのに。
「耀ちゃん、何知ってるんだろ……」
体温の高い秀ちゃんにくっついてたらちょっと眠くなってきた。
秀ちゃんが暫く黙ってたのは考えていたのか、言葉を選んでいたのか。
「知ってるとしたら、犯人……とか?」
秀ちゃんの言葉に頭が急に覚醒した。
うつ伏せでウトウトしてたのにガバって腕立て伏せみたいな感じで上半身を持ち上げた。
「犯人て、そんなんわかっとったら直ぐ解決するやん!!」
「あー、そうだよねぇ」
秀ちゃんは困ったような空気を纏う。それでピンときた。秀ちゃんには耀ちゃんの事情がなんとなく分かるんだ。
犯人が判ってるかどうかは置いておいて、俺には分からない耀ちゃんの事情が。
そう思ったらなんだか胸の辺りがゾワゾワして、いつもだったら優しい秀ちゃんに詰め寄ったりはしないのだけど今はちょっと状況が状況だけにぐいっと顔を近づける。
「し、翔平……」
「なんか知ってるね?」
ひーっ!て秀ちゃんが焦り出す。
秀ちゃんが動物だったら耳と尻尾はぺたんと垂れているだろう。狭い布団の中で逃げ場のない秀ちゃんが俺に詰め寄られてしっぽを股に挟んだわんこみたいに焦りまくる。
もう一押しって身を乗り出したら、後ろからぐいっと上半身を抱き上げられた。
「うっさいわ」
寝ていたはずの千春君が少し掠れた声で呟いて、一気に肩に担がれた。
俺が何かを言うまもなく千春君はガンガンガンと大股で部屋を出て、俺の部屋を素通りして一番奥にあるたっきの部屋を足で器用にノックした。
少し間があって、足音がドアへ向かって近づいてくる。
「あぃあぃなにぃ……って、うわ!?」
「わわっ!」
千春君は開き掛けたドアを全開にして、顔を覗かせたたっきに向かってぽいっと俺を投げた。
運動神経の良いたっきは俺を抱き留めるみたいにしてキャッチしてクルクル回って勢いを逃がす。それから、こんなん急に投げないで危ないから~ってブツクサ文句を言いながらビックリした顔で千春君を見下ろす。
俺は俺で受け留めやすく投げてくれたっぽいけど投げられた事に驚いて、所謂お姫様抱っこでたっきに抱っこされながら目をぱちぱちさせて千春君を見下ろす。
「お前の兄貴の話はお前がしてやれ」
「は?兄貴?どっち……あー、耀ちゃん?」
「俺や秀よかお前のが適任だろ。ほなおやすみ」
「は?え?千春君?」
千春君は言うだけ言うとさっさと自室に引っ込んでしまった。ご丁寧に鍵の掛かる音がしたから、今日は何をしても答えてもらえないだろうなぁ。
俺をお姫様抱っこしたままたっきは首を横に倒す。
何事?って風に宙を睨んでるたっきは恐らく状況を掴めていないんだと思う。
状況を凡そ掴めている俺はと言えば、取り敢えずすぐ近くにあるたっきの整った顔を眺めて、いつか耀ちゃんにこうされた時にはもっと心臓がヤバい感じになったんだよねぇとか考えてしまった。
あの時は手をどこにどうしておいたら良いかとかそんな事ばっか考えたはずなのに、対たっきにはなんて事は無い。普通に首に腕を回して体勢を安定させてる。
「話すくらいなら、まぁ、ええんかなぁ」
「話す?」
「うーん。話すってったってどこまでっていう話やねんけど」
ドアのところで立ったまんまもなんだから、たっきは俺をベッドに降ろして自身はラグに胡座を掻いて座った。
寝るところだったんだろう。さっきまでたっきの寝ていたベッドはほんのりと温かい。
向かい合って座ったたっきはくぁ~っと大きく口を開けて欠伸をしたあと、眠気を篩い落すみたいにふるふると体を振った。
大型犬がよくやるイメージ。ブルブルブルッて。
「で、千春君に何言うたん?」
「えと、正確には秀ちゃんに」
「秀ちゃん?」
さっき秀ちゃんに言った言葉を全く同じに言った。
たっきは黙って最後まで聞いてくれた。いつもみたく途中でツッコミを入れたりとかもしなかったし、相槌以外本当に何もしなかった。
ただ、たまにほっぺをぷくっと膨らませて何かを考える素振りは見せた。
そういえばこのほっぺをぷくってさせるの、みっちゃんも考えてる時にやるなぁ、癖って親子に移るのかな?あ、二人は別に親子じゃないか。でも、たっきとみっちゃんて癖とか仕草がとっても似てる。
俺の話がひと通り終わったら、はふぅ……って息を吐いて首をゆるゆると横に振った。
「呼び方はバラされたからやろなぁ」
「えー?何をぉ?」
皆の前で俺への片想い……って自分で言うとなんかすごく恥ずかしいけど、そんなのを暴露されたのと呼び名は関係ないくない?
「翔平を好きなこと。耀ちゃんの中ではトップシークレットやったのに、俺やミツ君にバラされたやろ?そんななのにもう呼べへんやろ」
だから、なんで呼び名に繋がるのかって。
「呼んだらええやん」
たっきは俺を軽~く呆れを含んだ目で見てから、何でわかんないの?って感じで肩を竦めた。
「えーっ?そら今更やろって思うけど、自分だけの呼び方に優越感感じてたのに、そんなんまで皆にバレたかもっ!うわっ!!マジでどないしよ~!て今、耀ちゃんの頭ん中物凄いアホな感じの脳内会議絶賛開催中やと思うけど?」
ものすごぉ~くバカにしたような、呆れたような、そんな悪ぅい顔をしてペラペラと軽薄な言葉を紡いでいく。
コイツ、ひでぇ……。
弟だからこその容赦の無さっていうか、それこそ耀ちゃんはこんな事を俺に知られたくなかっただろうに……。
これがたっきの憶測かと言うと、恐らくは大正解なんだろうって思われるところが耀ちゃんへの同情を更に誘う。
そうするとさっきのたっきのため息っていうか、変な感じのやつは耀ちゃんを憐れに思ってのアレか。
ほんまに悪い子やなぁ……。
「だから秀ちゃんは俺にあんな詰め寄られても言わなかったのかぁ」
「秀ちゃんは言わへんやろなぁ。他人の心のやぁらかい部分には触れない人やから」
おや?
表現の仕方がゆきちんみたいだ。
長く一緒に居ると色々似てくるものなんだろうか。
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