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呼び名に関しては了解。
これ以上突っ込んだりしない方向で行こう。
ずーっと翔ちゃんて呼ばれていた身からしたらなんだか淋しいけど、今の耀ちゃんにそれを言うのは酷な気がするし。
やれやれって風に肩を竦めて首を横に振ったたっきが深ぁいため息を吐いた。
「あと犯人についての話やけど。多分、耀ちゃんにはアタリついとるんちゃう」
「へ?」
アタリがついてるならなんで言わないんだろう?
そんなのゆきちんにでも言えば即解決しそうなものなのに。若しくは疑わしきは罰せずの精神であの写真撮らせたのかな?なら話の筋は通るかも。
「や、だって耀ちゃん自身がストーカー体質やもん」
相変わらずの薄っぺらさでペロロロロ~ンてとんでもない言葉を吐き出した。
「自分の他に翔平の近くウロチョロしてる奴見つけたらコイツなんかいつも居らんか?お前まさか翔平狙いちゃうやろな?って目ェつけててもおかしくないって」
ん?
待って?
なんて??
「す、ストーカー体質ぅ!?」
たっきはなんでかしたり顔で俺を見つめてきた。
「ごるぁーっ!龍紀ッ!!」
俺が変な声をあげたのと、ドアがばたーんっ!て開いたのはほぼ同時。
視線をそっちに向けたら怒りに顔を上気させた耀ちゃんが肩を怒らせて立ってた。
ドアっていうか耀ちゃんに背を向けて座ってるたっきは、器用に上半身を捻って耀ちゃんを小馬鹿にしたようなとろんとした瞳で見上げる。
「ほら、な」
わっざとらしいたっきの顔!
耀ちゃんが聞いてるの織り込み済みで言ったんか!!
そしたらさっきの脳内会議の件なんか耀ちゃんめっちゃ耐えたやんか。
絶対に殴り込みたかっただろうけど、聞かれてんのバラしたくなくてめいっぱい耐えてたのに、たっきは耀ちゃんのそういう性格を理解ってて、わざと俺に変な風に思われそうな言葉使ってここへ引っ張り出したな。
「何がほらやねん!お前ホンマにシバくぞ!」
「ほんまに翔平の事気になってしゃあないねんなぁ」
あわわわっ!
余裕そうなたっきにとうとう我慢の限界を迎えた耀ちゃんが掴み掛かって、そんな耀ちゃんの行動なんてお見通しだったたっきにあっさり転がされて押さえ込まれた。
毛の長いラグのお陰で大した音はしなかったけど、結構な勢いでころーんって転がされて耀ちゃんが罵声をあげている。
二人とももう180cm超えの高身長。それが転がって大暴れしてるんだからこっちはどうしたもんかってやきもきしてしまう。
「翔平が他の誰かのモノになったらって思ったら堪らへんのに告白はでけへんみたいやし。翔平が片想いしてるて知ったら応援したくないくせにフラれたら可哀想やて気ぃ揉んだり、失恋したら慰めつつも安心してる自分に自己嫌悪してみたり、見てるこっちはイライラしたわ」
「ごらーっ!」
よっこらせって飛んできた拳を避けて、その右手を掴んでおいしょっとって押さえつける。
「家族に、それも男が好きってだけで辛い思いした翔平に恋愛感情抱くなんて一時の気の迷いや!って証明しようとして告白してきた女と片っ端から付き合ってみたり、そのせいで翔平以外はアカンて思い知らされるわ、翔平と一緒居たらいよいよ無理矢理押し倒しそうんなって家出てみたり」
「た・つ・きぃぃぃぃぃぃぃ!!」
今度は膝蹴りが入りかけたのを器用に既のところで躱して、腰から太腿の体重で押して制圧に掛る。
そういえば俺に護身術を教えながら、みっちゃんやゆきちんの暇を見つけては自分もいざって時の為に使えないと困るからって鍛え直してたなぁ……。
たまに顔を見せる秀ちゃんにも組手をしてもらってるのも見たし、元々身体能力に恵まれてるのに益々磨きがかかってくなぁとは思ってたけど、今ここでそれを発揮しなくてもいいんじゃないかと思わなくも無い。
「家出てからも普通の恋愛ってやつに果敢にトライしたはええけどやっぱ翔平が一番やって思い知らされる羽目んなって挫折して、距離が離れたら離れた距離の分恋患いを悪化さして翔平の後をこっそり付け回すよになったり、翔平のSNSチェックして翔平の気に入った店とか調べて後から行ってみたりするよになった時には流石に弟として止めるかどうか迷ったで。家に居た時には普通に入って来てた情報なのに家を出たせいで本人から情報を得られへんよになってそゆことするようになったんやろうなぁ」
「や・め・ろぉおおお!!!」
……ホンマ、鬼や。
床に転がされてじたばた暴れる耀ちゃんを軽く押さえ込んで、たっきはやれやれと溜め息混じりに恐らく耀ちゃんが俺にだけは聞かれたくなかった秘密をべらべらと暴露していく。
普通にやり合ったら多分互角なんだろうけど、如何せん今の耀ちゃんは俺の前で知られたくなかった事をペラペラとたっきに暴露されまくって動揺してるから普段の半分も力が出せてないっぽい。しかも体格だけならたっきのが上だから、ちゃんと武道を習った耀ちゃんでも冷静に向かい合わないと分が悪いのかもしれない。
確かに大学進学当初は女性関係は特に派手だったし、急にバンド組んで家を出るとか言い出した。
バンドに関してはギターが好きで軽音部にも入っていたし、俺とも一緒に弾いたりしてたから実力はよく知ってる。それに色んなバンドに顔を出してサポートをしたり、自分で曲を書いて千春君に聞いてもらったりしていたのを知ってるから意外でも何でもない。
当時はあまりにも耀ちゃんのイメージからかけ離れた女の子との噂に心配になってみっちゃんに相談した覚えがあるけど、お付き合いの噂とは別に思い当たる節があるみたいな事を言われたように記憶しているから耀ちゃんはその当時から少なくともみっちゃんやたっきに思春期の悩みを見抜かれていた事になるわけだ。
俺がこう思ったらいけないんだろうけど、耀ちゃんが不憫に思えて仕方がない。
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