オンリー ロンリー グローリー

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 取っ組み合いの大暴れをしてる二人をどうする事も出来ずに見つめてたらじわぁって言葉が口から滲み出した。 「ごめんなぁ」  二人がぴたっと動きを止めて俺を見上げる。  ベッドの上で膝を抱える俺は苦笑いを浮かべるしかできない。  だって、色んな事を頭の中で整理してたら行き着いちゃったんだ。  この可能性に。 「俺が同性愛者(こんなん)やから耀ちゃん引っ張られてん。ほんまやったら可愛い女の子と普通の恋愛出来る筈やったのに」  そ。  俺が居なきゃそんな選択肢を考えたりしなかったんだろうなって。  俺さえ居なかったら、同性愛なんて耀ちゃんにとってドラマや映画や小説の中のフィクションでしか無かったはずなんだって。音楽業界に居るにしたって、家族でもない相手の事なんていくら人の良い耀ちゃんでも自分の事に置き換えて考えたりなんてしなかったはずなんだ。  そう思ったら俺が原因以外のなにものでもないんだって気が付いちゃったんだ。 「日常的にそういう奴が近くに居たら恋愛観が乱れて当たり前だよ。耀ちゃんはなんにも悪くない。それなのにずっとずっと気ぃ使わしてたなんて……」  目をまん丸くしたたっきがちゃうちゃうって手を顔の前でパタパタ左右に振った。 「翔平がおかしいんちゃうって、現に俺は女の子大好きやし。あくまでこれは耀ちゃんの性的嗜(せいてきしこ)……(いだ)ぁっ!」  耀ちゃんが思いっきりたっきを蹴り飛ばして立ち上がる。  そして仁王立ちになって俺を見下ろす。  口を大きく開いてすぅぅぅ……と大きく息を吸う。  その動作がやけにゆっくりと見えた。 「あほか!」  空気がビリビリ震えるくらいの一喝。 「お前が男が恋愛対象や言うたの俺がここ来た時一回きりやろが!そっから一回やってそゆ事言うたこと無いやろ。違うわ!全然違う!お前そう言うたんそんだけやから、ホンマにそうなんか確証持てへんかったし言ってフラれたら俺、一緒に暮らせへんから頭冷やしたくて家出ただけや」  俺とたっきはぽかーんと口を開けて耀ちゃんを見上げる。  涙目の耀ちゃんはぜぇぜぇと息を荒らげて続けた。  きっともうやけくそ状態だ、これ。 「好きや思ったの見た目ちゃうぞ。付き合え言ってきた相手と付き合ってみてよぉっくわかった。お前、俺に何も求めへんやん。いつもただひたすら優しい。何かしろとか、察して動けとか、勝手に期待して裏切られたとか、そゆ(ひと)()がりなこと絶対に言わへん。何かしてやったら、それがどんな些細なことでもめっちゃ嬉しそに笑うやん。俺、お前が言うありがとぉ聞くのがめっちゃ好きで、笑ってて欲しくて。そん時の顔がほんまに可愛くて」  さっきたっきが言った見た目がなんとかっていうのの答えだ。  俺は耀ちゃんが俺を可愛いって言ってくれたのは背が小さいからとか、男にしては容姿が中性的だからとか、そういうのかと勝手に思い込んでいた。  そうじゃないって、確かに耀ちゃんはそう言った。  言ったけど、改めて聞くとなんだか胸の奥がこそばゆくて顔が熱くて内側からカッカしてくる。 「何か返したいて。お前が笑顔で居られるよにしたいて。ただそれだけやねん。困った事があった時、一番近くで手ぇ貸したりたいて、ただ、そんだけやねん」  言い切った耀ちゃんはもうやけだったんだろう。  疲れてがっくりと膝に手を突いて項垂れた。  その項垂れた姿がなんだか愛しくて、目の前にある形の良い頭を思わず撫でてしまった。  いい子いい子って。  触れた瞬間ぴくって体を揺らしたけど、もう諦めたように頭を撫でさせてくれた。  少しウェーブの掛かったふわふわの髪が本当にわんこみたいで撫でてて気持ち良い。  もともと癖のある耀ちゃんは癖が酷くなるのを嫌がって髪を染めたりはしないから、ゆきちんみたく光が当たると緑がかって見えるくらいの真っ黒い髪。その中を俺の肌色がチラチラと撫でる度に見え隠れする。 「そんな風に思ってもらえて、俺は幸せもんやね」  たっきはまだ目を丸くして俺達を見つめている。  もしかしたら、耀ちゃんの口からこんな告白を聞けるだなんて思っていなかったのかもしれない。  俺にしてもそれはそうなんだけど。  でも。 「耀ちゃんに好きんなってもらえて良かった」  そう素直に思えた。  素直に笑えた。 「翔ちゃん……」  撫でていた俺の手を払わないようにしながら顔をあげた耀ちゃんが信じらんないって風に俺を見つめた。  拒絶されるって思っていたらしいのが伝わってきて、そんなとこも愛しいなぁって思った。 「俺でええなら、宜しくお願いします」 「お……おんっ!」  みるみる笑顔になるのもね、あぁ耀ちゃんだなぁって。  それに、また翔ちゃんて呼んでくれたし。 「カップル成立やな」  急にした声に俺等子供組が一斉にドアの方を見る。  そこにはにやにや笑う千春君に、とにかく嬉しそうなみっちゃん、どこか安心したようなゆきちんと優しく微笑む秀ちゃんが居た。  二人があれだけドッタンバッタン大暴れしたんだもん、心配して様子を見に来ていたんだと思う。 「なっ、なっ、なっ……」  見られてた事に動揺した耀ちゃんが何かを言おうとして口をパクパクさせて震え出す。  顔色は可哀想に赤いのか青いのかもうよく分からない。 「耀が息子の恋人て事は、お前ら俺の親族んなるんか?」 「嫌か?ウチの子出来ええで」 「耀やなくて、お前らが……」 「ここまで来たら腐れ縁は変わらんしええやんか。したら明日の夜は赤飯やなー」 「だぁああーっ!!!!」  千春君とみっちゃんのやり取りを聞いた耀ちゃんがオーバーヒートを起こして頭を抱えて叫んだ。  そりゃあ、そうだよなぁ。  ゆきちんと秀ちゃんの優しいコンビが耀ちゃんの心情を思ってかやんわりと千春君とみっちゃんを止めにかかった。  (ちな)みに悪魔(たっき)はとても満足そうにニマニマと笑ってた。
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