オンリー ロンリー グローリー

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 イジる気満々だったみっちゃんはゆきちんに(たしな)められてサッと頭を切りかえた。 「で、耀には悪いんやけどな?今日の事もあるし、念の為に翔平は暫く誰かと寝た方がええなって圭と話しててな」 「……なんも悪いことなんかない」  みっちゃんの言葉に恥ずかしいのか耀ちゃんがプスッと息を吐いて視線を泳がせた。それでも照れて俺から離れていく事はしなくて、俺の座るベッドのすぐ下のラグに胡坐をかいて皆の視線から逃げるようにそっぽを向いた。  耀ちゃんが俺と一緒に寝るのは多分そういう意味で都合が悪いんだろうっていうのはわかるし、また赤飯を炊かれる話をされるのは俺も気まずいかなぁ。 「このままたつの部屋で預かってやってくれ。な?」 「えー!俺まだ耀ちゃんに殺されたくなーい」 「殺さへんわ!」  ぶすくれたたっきに即座に言い返す耀ちゃんの顔は真っ赤だ。  本当に諸々を知られたくなかったんだなぁ。  そりゃそうか。知られても家族になら別にいいかぁってなる俺の方がちょっとズレてるんだうし。 「おーおー不法侵入者が来たら遠慮無く()ってええで」  そんな耀ちゃんの事をみっちゃんが腰に手を当ててカカカッて笑い飛ばした。  冗談なんだかなんなんだか……。  物騒な事この上ないけど、さっきの事を考えたらその可能性を排除出来ないって事なのかな?  みっちゃんに任せていたら耀ちゃんの胃にストレスで穴が開きかねないと思ったのか、珍しい事に千春君が説明を引き継いだ。  少し眠そうだけど。  はぁ……ってため息を吐いてから、低くも高くもないぼわっと滲むようで澄んだ声が朗々と千春君の唇から流れ出る。 「冗談抜きでな。警戒心MAXの圭とミツ、俺と秀の部屋の前を無事に突破出来たらお見事って事や。窓側から来られても気配に敏感な圭と耀と龍紀の誰かが気がつく。特に気配や物音に敏感な圭と龍紀が両端だからな」 「そうだねぇ。今夜の内にどうこうはしないと思いたいところだけど、盗聴器とカメラを撤去されたのは向こうも分かっているはずだから念には念を入れて明るくなってから話し合おうか」  千春君と秀ちゃんの言う事も(もっと)もだと思う。  盗聴器やカメラを撤去されたって事は、自分が誰かは特定されていなくても存在はこっちにバレたって事と同義なわけだから相手も何をするか分からない。  だからこそさっき俺の事を追いかけるような真似をしたのかもしれない。もうバレているならコソコソする必要は無い。問題は俺を追い掛けて、捕まえてどうしたかったかなんだけど。 「この中じゃ感知能力、機動力、攻撃力がトップの龍紀に預けるのが安全だと俺は思う」  ゆきちんにそう言われたら、たっきも満更でもないらしくてニマッて笑って引き受けてくれた。  うん。  確かに俺もそう思う。  若いとかじゃなくて、他人の気配に敏感で、それが敵性の物だと判断した瞬間に即攻撃に転じる事が出来るのはこの中ではたっきがダントツだと思う。寧ろ相手の事情とか、今後の生活とか、そういう対峙した(あいて)の人間性を一切無視して、未来永劫(みらいえいごう)復讐を思い浮かべる事すら出来ないないように徹底的に。目玉のひとつ、腕の一本くらい平気で破壊する攻撃を躊躇いなく放てるのはたっきだけだ。  逆にそういう意味では俺がこの中で一番(もろ)い。  認めたくないけど、それはもう壊滅的に脆い。  どんな相手に対しても〝このあとの事〟を考えてしまって攻撃なんて出来ない。目が見えなくなったら困るだろうな、腕が使えなくなったら不便だろうなって、そんな事を考えている内に相手に制圧されてしまう。  この期に及んでも物事の優先順位は相変わらず自分が一番低いままだ。  襲撃の可能性(あんなこと)を言われてもあっさり寝られるなんてたっきって大物な気がする。  俺はさっき秀ちゃんのところでちょっとうとうとしたっきり眠気はどっかへ行ってしまった。そんな俺を余所(よそ)に、たっきは俺を後ろっからすっぽり包むみたいにして抱き枕よろしくぺったり引っ付いて寝息を立てている。 「……はぁ」  でも、この体勢ってこの部屋の窓やドアから襲撃された時に一番対処し易い体勢だよね。  たっきだって忙しいのに迷惑かけちゃってる……。 「?」  俺の携帯がぽわっと光った。  たっきを起こしちゃわないように気を遣いながらそっと手に取って、明度をめいっぱい落としてメッセージツールを開いたら耀ちゃんからだった。 『寝られへんの?』  なんで分かったんだろ?  壁の向こうっ側で気にしてくれてるのがなんだか嬉しくて口が自然に笑みを敷く。 『睡魔さんどっか行った』 『横で寝てる奴が三人分引き受けてるんちゃう?』  送ったメッセージは即座に既読が付いて、直ぐに返事が返ってくる。  くぅくぅ寝息を立てるたっきをちらっと横目で確認したけど起きる気配は全く無い。 『耀ちゃんはまだ寝ないの?』 『俺もなんか眠気こない』 『そっかぁ』  ポチポチやりとりを続ける。  本当に他愛の無いやりとり。  一緒に住んでた頃には毎日繰り返してたそれをメッセージでやりとりしてるのがなんかおかしくて。  柔らかいような、くすぐったいような、不思議な感じ。  ドアを開けて隣の部屋へ行ったらそこには耀ちゃんが居て、普通に話もできるのに、こうしてメッセージをやりとりしてる。  なんだろう?  こういうのって、お話の中でしかないんだと思ってた。  くすぐったいような、でも楽しいような。 …………ごんっ!! 「……!?」 「二人ともさっさと寝ろや!!!!」  たっきに壁を力いっぱい蹴られてしまった。  ダメな兄ちゃんでほんまにすみません……。 「翔平、翔平、()ぉきて」  優しく声を掛けられてもう少し微睡(まどろ)んでいたかったけどなんとか目を開いた。  昨日はたっきの部屋に泊まって、それで寝付けなくて、それで……思い出して顔が赤くなってしまう。  付き合いたてのカップルみたいな事をしてしまったってじわじわと恥ずかしくなってくる。 「起きた?」 「秀ちゃん?」 「うん。おはよう」 「おはよぉ?」  なんで秀ちゃん?  部屋はたっきの部屋だけど。 「龍紀はもう起きてご飯食べてるからね。昨日寝付けなかったんでしょ?もう少し寝かせてあげようかって話になってね。でも一応声は掛けておこうかって」 「あー、たっきに謝らないと……」  つい零した呟きに秀ちゃんは優しく微笑んだ。  本当に優しくて、微笑ましいものを見るみたいに。春のぽかぽかのお日様みたいな笑顔を浮かべて、優しい声で言ってくれた。 「翔平もそういう恋愛してもいいと思うよ」 「え?」  秀ちゃんなんで知ってるの?って、たっきが言ったに決まってるか。  寝るのが大好きなたっきは安眠妨害には物凄くキビシイ。そのたっきが俺に怒らないで寝かせていてくれたのは秀ちゃんと同じ理由。  今まであった色んな事から恋愛のあれこれを諦めきってた俺への優しさであって、恐らく先に起きてきた耀ちゃんへは遠慮無く文句を言ったんだろう。 「ごはん、食べられそう?」 「うん。着替えてから下行くよ」 「それなんだけど、家にいる間も取り敢えず誰かが一緒に居ることにしようかって。だから早く起きてた俺がここにいたんだけど」 「俺は良いけど皆は負担じゃない……?」 「少なくとも俺は負担じゃないよ。まずは翔平がご飯を食べてから情報整理をしようかって話になってる」  着替えている間、俺の部屋の前で秀ちゃんは待っててくれるらしい。  一人の時間が無いのはストレスがかかるんじゃないかって気にしてくれたけど、実はそういうのは無いタイプだったりする。  家族限定だけど。  家族とだったら変な話四六時中ベッタリくっついていても全然平気。だから同じくベッタリくっついてるのが苦じゃないたっきと広いリビングの狭いソファで一緒に居る事が多いわけなんだけど。
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