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俺が朝食の席に着いたらざらめ砂糖の入ったバターの塗られたトーストとスクランブルエッグに厚切りベーコンとプチトマトとコールスローが乗ったプレートが置かれた。
ほかほかと湯気を立ててるスープカップの中では、ゴロゴロと角切り野菜がたっぷり入ってるコンソメスープがいい匂いを立てていて食欲をそそられる。
「いただきまーす」
「そんで足りるかぁ?」
「足りる~」
みっちゃんはいつもお腹いっぱい食べられてるかって心配してくれる。
俺は家族の中でも特に食が細いから、みっちゃんはあの手この手で栄養を取らせようと昔からいっぱい考えてくれてると思うんだ。ほら、今だってヨーグルトにフルーツを入れて混ぜたのをもう一品作ってくれた。
「あー!翔平ズルい~!!ミツ君俺もそれ食べたい」
「たつは食いすぎやな 」
そう言いながらもちゃんと出してあげてる。
昨日のメッセージの話を皆の前でされるのかと戦々恐々してたから、なんにも言わないたっきに肩透かしを食らった感じでやっぱり据わりが悪い。
今更ながら思い返すと結構遅い時間だった。
寝るのが大好きなたっきにしてはかなり譲歩して少しは大目に見ても良いかって思ってくれたんだろうけど、結構長い間ポチポチやりとりしてたもんなぁ……。
お皿の中が空になったタイミングで目の前の席で肘を突いてテレビを眺めるたっきに視線を向けた。
「謝らんでええからなぁ」
「っ!?」
「昨日もう叱ったし、兄ちゃんのそゆの恥ずかしい」
「…………はぃ」
先手を打たれてしまった。
それからとてもぶすくれた顔をして口を尖らせる。
まだ何か言う気だな?
「謝るってのある意味ズルいからな。翔平に謝られたら俺の選択肢は許すしかなくなるって思わん?」
「あ……」
「まぁええけど。翔平がそんな器用に出来てないの分かってるし」
視界の隅で耀ちゃんも気まずそうにしてるから、朝一番で謝ってしまったのかもしれない。
違うか。
耀ちゃんはたっきの事を俺よりもずっと理解ってるから散々言いたい放題文句を言わせた上で謝ったんだろうな。散々言いたい放題って言うよりも家族の前で起訴状を読み上げられるみたいに昨夜の壁を蹴った理由を一つ一つ言い上げられて、異論や反論はあるかとやられたんじゃないだろうかと察した。
食事と眠りを邪魔された時のたっきの怒りはかぁ~なりねちこいから大変だっただろうなぁ……。
耀ちゃんが謝っちゃったから、たっきは俺もきっと謝ってくるんだろうなって思って俺の目の前でぶす……ってしながら座ってたんだ。
昨日のアレを許してくれる為に。
相変わらずたっきは俺を甘かすなぁ。
これじゃどっちが歳上か分からない……って、一つしか違わないけど。
俺のご飯が終わった頃を見計らったようにカーペットに転がってた千春君がのっそりと立ち上がった。
それを合図にしたみたいに皆が食卓へ来る。
各々の席に着いて、ゆきちんへ黙って視線を送る。
因みに食卓は正方形に近い長方形で、キッチンカウンターに少し長い方の片側をくっつけるように置かれている。
リビングのドアに背を向ける短い側のキッチン側席が秀ちゃん。その隣りがたっきで、長い側に耀ちゃん、ゆきちん、千春君で、たっきに向かい合う短い側に俺、その隣りがみっちゃん。
みっちゃんは最後までキッチンに居る事が多いからこの席が良いって立候補して、俺はお手伝いしたくて隣を希望した。でもって千春君が自然に俺の隣になって、ゆきちんは背中がドアがあんまり好きじゃないみたいでそれを知っていた秀ちゃんがスルッとドアの方の席に座った。その後で耀ちゃんが来て、ゆきちんの隣にやっぱり自然に座って、たっきは耀ちゃんと秀ちゃんの間になった。
その食卓で七人で顔を突合せてこんな風に話をする事なんて数える程どころか記憶にも無い。
家では皆は思い思いの場所で寛ぐから、ほとんどの住人にとって食卓はその名の通りご飯を食べるところでしかない。
ゆきちんは食卓の上で両手を組んで、その上に視線を落としてふぅ……って小さく息を吐いた。
「耀と龍紀が起きてくる前に秀に家の周りを確認してもらった。誰かの侵入した形跡は無いらしいけど違和感はあったらしい」
話を振られた秀ちゃんが目尻に皺を寄せて笑う。昔から緊張すると笑っちゃうんだよね。
全員からの視線を受けるのにちょっと緊張してるのかな?
「違和感って言っても些細なモノ過ぎて見逃しかけたんだけど、庭木に少し傷がついていてね。俺には生垣から分け入ろうとしてセンサーがあるのに気が付いて途中で断念したように見えた」
この街は景観を大事にする風潮があって、緑を多く取り入れたガーデニングをしている家が多い。
ご近所から浮かないように我が家も当然のように見た目を綺麗に整えてある。
全員忙しくて庭まで手が回らないから、そこはちゃんとした業者さんを入れて。その業者さんとやりとりをして、普段の庭の手入れをしているのは秀ちゃんとたっきだ。業者さんはきちんと仕事をこなしてくれるから庭木に目で見てそうと分かる傷なんてそうそう付かないと思う。
それにセキュリティは大人組が遅くなる事が多いからって警備会社と契約していて、生垣は腰の辺りまでレンガが積まれてその上は鉄の柵になってるとはいってもその気になれば簡単に入れちゃうからセンサーが設置してある。
庭からは木があって近づけなくて、誰かが外から庭に侵入したらわかる位置に。これは家族の共通認識だから、秀ちゃんは外側から念入りに確認してくれたんだろうなぁ。
「多分だけど、焦り始めてるんじゃないかなぁって」
「だろうな」
「盗聴器いつ撤去したの?」
ゆきちんが冷蔵庫の脇に貼られたカレンダーに目をやる。
俺もつられて身を捻ってカレンダーを眺める。よく見れば黒い星のマークが一昨日に付いてた。
え?一昨日?それで千春君は帰国してきたの?
「一昨日やな。で、昨日集まって……千春が最短の飛行機でも昨日の夕方着やったから元々今日話すつもりやったんだけどな?相手が行動を起こすのがこっちが思うより早かったわ」
みっちゃんが肩を竦めて首を横にふるふる振った。
盗聴器とカメラを撤去して翌日に俺の事どうこうしようとしたって事は、偶然一昨日に盗聴しようとしたら出来なかったとかじゃない限りほぼ毎日盗聴してたりカメラで覗き見してたってことにならない?
ぞわわゎゎ……って寒イボが立った。
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