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気が付いたら俺が両腕で体を抱くようにしてるのと全く同じリアクションを目の前の席でたっきがしてた。
親子が似るって話だけど、兄弟もリアクションが似るらしい。要は同じ屋根の下で長年暮らしていれば似てくるって事なのかもしれない。
「おえーっ!そいつキモ過ぎて俺生理的にムリ」
端正な顔をぐにゃっと歪めてペロリと舌の先っちょを出してみせた。耀ちゃんもそこまで顕著じゃないけど眉間に皺を寄せて渋い表情で腕を組んでる。
「翔平の風呂とかトイレとか見てどないすんねん。まぁ風呂は翔平長風呂やから好みの奴の裸ゆっくり堪能出来るんかもしれんけど、部屋は着替え以外服着とるやろ?そんなん見て……あ!翔平も男やし溜まるモン溜まるなぁ。それ狙いで見てて車の中とかで見ながら自分も抜いて……あ痛ぁっ!!」
「そんなんお前に言われんでも皆なんとなく察しとるわボケ!口に出すな」
この座席でたっきにツッコミを入れられるのって耀ちゃんだけ。反対側の席の秀ちゃんが誰かをびたーんっ!て叩くのは冗談でも見た事がない。そうなるとたっきへのツッコミ担当は必然的に耀ちゃんだね。
うん。
最後のとこは止めてくれて有難い。
その可能性が一番高いのは全員察しててげんなりするから口にしなかっただけだ。
パッコーン!てどつかれてもケロッとしてるたっきが小首を傾げてうーんって唸る。
「そうすると俺と秀ちゃんのワクワクバスタイムも見られてたんかなぁ?」
「そうかもねぇ」
「えー?そしたらドッキリ☆裸の付き合いギャグ合戦!もタダで見放題やったん!?金払えや」
「いやいやお金取れるクオリティじゃないから」
秀ちゃん?否定するところが色々間違えてると思うんだけどな。
「……お風呂で何してるの?」
思わずおでこを押さえてしまった。
ドッキリ……なんだって?そこは流石にストーカーさんに同情するわ。どのくらい前から盗撮してたのかは知らないけど、秀ちゃんが泊まってる時は大体二人でお風呂でキャッキャしてたから高確率で見ちゃっただろうなぁ。
「ドッ……は……裸の……お前ら何しとんねん……」
耀ちゃんがカミカミになりながら呆れたように口の端を下げて、うっわ!しょーもな!!関わり合いになりたくないわ~って表情を作った。
秀ちゃんとたっきは顔を見合わせてから無茶振りしあって遊んでるだけだって言うけど、それ身内だから楽しいやつだよ。もっと言うなら仲良しの秀ちゃんとたっきが楽しいだけのやつ。
俺ともなんちゃって漫才したりもするけど、そのドッキリなんとかの方がだいぶ下品な気がする……。
千春君が俯いてふぅぅぅう………って深くて長い溜息を盛大に吐き出した。
「話」
それだけを端的に言って、項垂れた首をゆるゆると振った。
恐らく今の話で戦闘意欲をゴリゴリ削られたんだろうなぁ。ふと見たらゆきちんも綺麗な顔を無にして真っ直ぐ前をとろんとした瞳で見つめて気を落ち着けてるとこだった。
「したら今後の話やな」
全員真顔に戻ってぱんっ!て手を打ったみっちゃんへ視線を向ける。
「確認事項がいくつか。まず一つ目、これは犯人が誰かって事やけど。これは耀がなんとなく当たりつくんやったな?」
「おん……シッポを掴ませないから確定違うけど、前に飲み会で翔ちゃんを襲ったのが多分そう。アレ睡眠薬とか盛られてた可能性が高いと思うわ」
「ええっ!?」
「自分じゃわからへんくらいの量やろな。そゆ手口使う奴もおって、被害者は薬のせいで力抜けて体動かんし、朦朧としてても意識が全く無いわけじゃないから後で警察へ突き出しても同意やったって言い張る下衆な犯罪があんねん」
あの時、本当に俺はかなり危険な状態だったんだ……。
薬なんて気が付きもしなかったし、今聞いてもわからない。ただ、異常なほどに力が入らなくてあっさり抑え込まれたと思ったのはなんとなく覚えてる。俺はちゃんと平均男子かそれ以上の力があるはずなのになんで?って混乱したはず。
「店で薬入れたっぽいのは気ぃ付いたけど、翔ちゃんを保護するのを優先したから証拠の回収はし損ねた。そん時はどんだけ薬盛られたんか分からんかったし。下手すりゃ救急車かて焦ってヘタこいた」
それは下手こいてないのでは……?
耀ちゃんが仕事とか用事があって俺をつけていない日だったら完全アウトコースだったんだ。
耀ちゃんは俺を好きになってくれて、自分が我慢できなかったから後をつけてたって表現をしてくれたけど。
結果論でだけ言うなら、耀ちゃんが俺の後をつけていてくれていたからこそ俺は平穏無事に過ごせていたんだと思う。
自分では気が付けなかった危機的状況の数々を、自分で認識しないまま耀ちゃんにそっと助けられ続けていたのかもしれない。
「帰ってきた翔平の目の焦点が微妙に合ってなかったから、こら薬かなんかやられたなってすぐわかったで。風呂場の前で倒れないか様子見しながらどれくらいで薬抜けるか計っとったけど、そこそこのところで抜けたからな。耀の言う通りそこまでの量やなかったんやろな」
みっちゃんが俺を見て何かあったらしいなって察したのはそれが理由だったのか……。いくらなんでも察しが良すぎるとは思った。
いつもだったらお風呂場の前で待っていたりなんてしないし、みっちゃんが更にオカンみたいになっちゃっただなんて呑気に思ってた自分が恥ずかしくなる。
「あー、後で病院で検出されないギリギリのやつか。そういや民事の方で聞いた気もするなぁ。変に自我残しとくのも耀ちゃんが言ったよに同意の上の行為って言い張る為な」
たっきまで参戦してきて俺は頭を抱えてしまう。
あの時の人がストーカーだったんなら俺は彼の顔をしっかり見たはずだ。
それなのに不思議なくらい覚えていない。靄がかかったみたいに薄らぼんやりと輪郭すら曖昧で、体格ですら中肉中背で本当にどこにでもいる普通の人っていうくらいしか思い出せない。
特徴がないのが特徴です。
みたいな。
もし電車で隣に座ったり、同じエレベーターに乗っても気が付かなさそう。それが毎日でもかなり自信が無いくらいの本当に普通の人だった。
「これ、ちょっと……」
俺の零した呟きに千春君が視線を投げてきた。
話が脱線しても構わないから話せって事だと思う。
「俺、全く覚えてない。特徴が全く無いってくらいしか思い出せない。そんな相手がファーストキスの相手って嫌だなぁって」
千春君が目をくわっ……と開いた。
そっちかい!!ってツッコミを入れたかったのかもしれない。俺が千春君の立場でも今それ言う?って思うもん。
しまった……って皆を見回したら、みっちゃんは口をぽか~んと開けて八重歯がコンニチハしてるし、秀ちゃんも珍しく目を大きく見開いて俺を見てる。耀ちゃんもハァ?って顔してるし、たっきがほんっっっとに珍しく瞳孔開いてない?て感じの魚が死んだような瞳でこっちを見つめてる。
「翔平」
ゆきちんだけはいつもの表情で俺の名前を呼んでから抑揚の乏しいこれもいつもの口調で爆弾をボ~ンッと投げて寄こした。
「初めてキスしたのがその時だって認識なら、お前のファーストキスの相手は耀だ」
なんだって!?
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