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なんやって~っ!!!!?
驚く俺に皆が驚いてる。
なんで!?
そんな驚くの?
俺そんな記憶無い……あ!
「酒なんか飲ませなきゃ良かったと思わせる有様だったぞ」
やっぱり!
千春君がまた深いため息と一緒に恐らくは俺の失態についての言葉を零した。
「家で飲ませて大正解やったな!あんな甘えたのキス魔になるなん外でいきなりやるよかずっとええわ。それにわざわざ耀を選んで抱きつきに行ってキスしとったから誰も傷つかへんかったしええやんか」
カカカと笑い飛ばすみっちゃん……。
俺の記憶に無い俺自身の行動に頭が痛くなってくる。
そりゃあたっきが死んだ魚の目をするはずだ。
兄貴のキスシーンとか見たいものでもないだろうに。
しかも耀ちゃんの性格やら事情やらを考えれば全力で逃げようとしたはずだ。それなのに俺は酔っ払って抱きついてキスを繰り返して?耀ちゃんは抱きつかれちゃったらそんな俺を振り払えるわけもなく、物凄く動揺をしていたんだと簡単に想像がついちゃうのがね。
もう居た堪れない……。
「覚えてなかったん?」
耀ちゃんが困ったように呟くからまた罪悪感がどーんっ!て圧しかってくる。
俺がたまに記憶を吹っ飛ばす型の酔い方をするって気が付いてるのって、たっきとゆきちんだけなのかも。たっきの反応はあーやだやだって顔に書いてあるし、ゆきちんはさっき表情が一人だけ変わらなかった。
「……ごめん。俺、物凄く酔うと記憶なくなっちゃう」
「そ……そうなん……」
耀ちゃんがなんでか顔を真っ赤にして俯いた。
隣の席のゆきちんが本当に気遣わしげな視線で耀ちゃんを眺めてるから、まだなんかあるのかと身構えちゃう。
「そらまぁなぁ、アレが耀ちゃんの理性の紐をそらもう見事にぶっちん!てちょんぎったからなぁ。耀ちゃんこっちが見てて気の毒んなるくらいに狼狽えとって、家族の手前何も手ぇ出せへん生殺し状態で、オマケにそのまま熟睡されて部屋持ち帰っても酔っ払い相手じゃ手ぇ出せなくて一晩悶々として?当の本人だけなーんも覚えてませんでしたてなんの拷問や」
あはははは~ってたっきが遠い目をしてぺっらぺらぺら~って補足してきた。
うん。
覚悟はしてたけどさ?
「もっと詳しく言うたるわ。リビング居る時に皆して引き離そうとしてやったのに、嫌や~!耀ちゃんと一緒居るぅ~て翔平思っクソ泣け叫ぶし、酔い覚めてからのこと心配した耀ちゃんにやんわり諭されても俺とキスするの嫌なん?とか言って耀ちゃんの息も絶え絶えな理性フルボッコにするしもう最悪」
耀ちゃんが俯いてさらに顔を赤く染めていく。
「あれ耀ちゃん一晩中一睡もできないで大学行ったんやったよな?人ってたった一晩でこんな窶れるもんなんやなって俺あん時はじめて知見を得たもん」
俺、本当に酷くない?
ゆきちんが表情を変えないまま俺に視線を戻した。
「この話が気になるなら後で誰かに聞け。ミツ話進めろ」
「おー、そうか?面白そうやったけどしゃあないな?んじゃ話戻して二個目いこか」
面白そうって、みっちゃん酷い……。
耀ちゃんはとっても気まずそうにして俯いてしまって、本気で良心が呵責でズキズキする。
耀ちゃんがたっきの軽口に食って掛かる気すら湧かないって相当だよね。
「二個目だけどな?翔平が耀の話聞いて犯人に心当たりあるかて事やったから無いなら次や。三個目な。これ本題やな。これからの方針についてやな」
本当に真面目な話にグッと機動修正された。
昨日のは完全に不意を打たれた形になったから逃げの一手しか打てなかったけど、きちんと準備が出来てさえいればこちらは人数も居るし捕まえようと思ったら出来そうな気がする。
でも、俺の為に家族に危険が及ぶのは本意じゃないから俺の思考はそこをグルグルしてしまう。
皆も似たり寄ったりな感じらしくて、最初の一手に困ってる感じ。
「仕方が無いから罠張って短期決戦するかぁ?」
「ミツ?」
はぁああ……って仕方が無いなぁって風に腰に手を当てて息を吐く。その仕草を見たゆきちんの顔がぎょっとしたものに変わる。
ゆきちんがこういう顔をするのは昔からみっちゃんに対してだけ。
「玄関と階段上がったとこのカメラと風呂場の盗聴器は残してあんで」
「お前……」
「玄関と風呂場は盗聴器もカメラも複数あったから取り漏らしたよに見えるよにしてな。玄関と廊下にカメラなんか設置して何に使うん?って感じやったけど、侵入する時に誰がどこに居るんか把握する為につけとるんかって思ってな。でもこの二箇所なら見られても逆に罠に掛けられるかと思って独断で残したった。盗聴器はまぁ、風呂やからな。聞かれて困る事も無いし箝口令は布いとるし」
「……お前って奴は」
ゆきちんがひくつく蟀谷を押さえて眉間に皺を寄せて目を瞑ってしまった。
俯いたまま蟀谷を綺麗な指先でぐりぐりと押して、浅く息を吐く。
「昔っから攻撃は最大の防御って言うやん?したらこっちもなんでもええから武器持っとかんとな!丸腰やったら対処療法よろしく耐久戦になるで?千春と耀は顔売れとるからあんま長期間やり合うんは得策やないやろ?」
みっちゃんの言う事も納得出来る。っていうか、こっちから仕掛けようとした時を考えればグッジョブだと思うんだけど、ゆきちんはどうも考えが違うらしい。
ゆきちんは他人の気配が自分のテリトリーに入り込むのを極端に嫌うとこがあるし、他にも何かあるのかもしれない。
「ここの声、風呂場まで届いてへんやろな」
たっきがボソッと小声で呟いた。
みっちゃんは声が大きいからそう言われるとちょっと不安かも。
「玄関と階段のカメラは画素数少ないし集音ないやつな、風呂場の盗聴器は遠くへ電波飛ばせる代わりにコイツも集音能力低いな」
スペックを分かっていてその子達を残したらしい。
それに仕掛けられてた機器はどれも録画や録音の機能は無いみたいで、受けた側で録画されてなければ今のところは安心していいらしい。
問題は今までの録画だけど、それは捕まえてから警察に押収してもらう事になりそう。
たっきが肩を竦めて手を挙げた。
「大人組が思いついてて言えへんの言ってええ?」
たっきは大人組の事をまとめて呼ぶ時に〝おっちゃんたち〟って呼ぶ。この見た目バケモノ級に年齢不詳の大人組をおっちゃんと言い放てるたっきは本当になんていうか……。
「言ってみろ」
また薄っぺら~くぺ~らぺらぺらって軽い言葉が音楽みたいにリビングへ流れていく。
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