オンリー ロンリー グローリー

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 大人組は表情を変えていないからたっきが耀ちゃんを尾行(つけ)ていた事は承知しているのかもしれない。  たっきならストーカーとかち合ったとしても負けるどころか勢いのまま仕留めかねないし、万が一耀ちゃんとストーカーか揉めた時にたっきがついているなら遠慮なく割って入ってストーカーを吹っ飛ばせる。  けど!  俺への信頼とたっきへの信頼に差がない?  そりゃあ警戒心は皆無で生きてきたし、武道どころか喧嘩すらした事なんてないかもしれないけど……。 「お前……」 「あんなぁ、耀ちゃんも翔平も全くわかってへん。どっちが居なくなんのも俺は嫌やからな?耀ちゃんは家族の為ならなんでもするけど、翔平は家族の為ならなんでも我慢するやん。そゆのこっちからしたらどっちもどっちで最悪。家族なら頼れや」  今まで見た事がないような凄みをみせて、背を反らせて腰に手を当てたたっきが俺等を見下すように壮絶に美しい笑顔を浮かべた。  背中がゾクゾクするような。圧倒されるような、そんな雰囲気を纏って口元は弧を描いているのに瞳は氷点下。開いた薄めの唇から低いけどパキッと良く通る声が力を込めて不満を吐き出した。 「家族を巻き込まんよにて?そんなん俺等んこと信用してへん言うてるのと同じやんか!!」  流石はゆきちんの血縁。本気を出すと顔もそうだけど、醸し出す空気までがばぁあああって華やぐ。  知らずにこっくん……って唾を飲み込んだ。その動きでやっと我に返る。  一瞬、たっきに飲まれてた。 「大人組(おっちゃんたち)は絶対に耀ちゃんと翔平を危険に晒すような手は取らない。でも、俺は取る」  悪魔的な美しい笑顔のまま()めつけるような視線が秀ちゃん、ゆきちん、千春君、みっちゃんの順に移動していく。 「耐久戦も持久戦も長引(ながび)きゃ長引いただけ翔平が何かされる確率が上がる。俺等は別にSPとかと違うもん。絶対にどっかで(ほころ)びが出来る。相手もそれを待つはずや。したらこっちから仕掛けた方がなんぼかマシや」  一番最初に折れたのは珍しく秀ちゃん。  秀ちゃんは保守的で誰かが怪我をしたりっていうのを避ける傾向にあるんだけど、ス……ッて両方の肘を軽く折ったバンザイで降参のポーズをとってみせる。  それに呼応するように千春君も深く息を吐き出してから頷いた。千春君は早々にたっきの意見が最善だって気が付いていて、それでも俺の安全を考えて他の手段を考えあぐねていた節がある。  あとはゆきちんだ。  みっちゃんはゆきちんが良いと言えば反対しない。昔からそう。何か大事な事柄を決める時にはゆきちんが答えるより先にみっちゃんが答える事は無かった。  ゆきちんはやっぱり無表情で。 「反対」  抑揚のない声でポソッと呟いた。  これで二対二か……。  大人組の意見が割れたところをあんまり見た事がないからよく分からないけど、ゆきちんの意見が重要視される傾向が強い気はしてる。  それはゆきちんが家主だからとかとはなんか違う。肌で感じるだけだから理屈で説明出来ないけど、三人ともゆきちんの判断なら従って構わないって思ってそう。 「一対三(いちさん)か。こら困ったな。どこを落とし何処にしたらええか話し合わんとなぁ」  え……?  俺だけじゃなく、ゆきちんを除く全員が驚いたみたいだった。  流石のたっきもゆきちんの反対の言葉に少し焦ったように眉を揺らしていたから、みっちゃんがたっきの提案に乗るとは思わなかったんだろう。 「……お前、こいつらになんかあったら死ぬほど後悔するぞ」 「せやな」 「覚悟の上か?」 「おー。あっちは正体不明の一人でこっちは正体バレバレの大人数。オマケに翔平は家族の為なら自分を軽んじる性格なのも恐らく相手は把握済みや。こうなりゃジリ貧は目に見えとるからな。打って出るならそらもう完璧な計画練るで」  ゆきちんにじっと見つめられてみっちゃんがいつもの調子でカカカッて口を大きく開けて笑った。  あくまでゆきちんは表情を変えないまま、薔薇のような唇からポツリと言の葉を零した。 「任せる」 「あいあい任せとき!」  ゆきちんが折れた!?  やっぱり驚いてるのは俺だけじゃない。耀ちゃんも目を見開いて隣に座ってるゆきちんを見つめてる。 「…………お前が居なきゃ俺の人生、泥舟やったからな」  その呟きで何となく察してしまった。  ゆきちんは俺や耀ちゃんの身を案じて反対しただけじゃないんだと思う。それも勿論(もちろん)あるんだろうけど、それよりも俺等に何かあった時のみっちゃんの精神状態(こころ)の方をより案じたんじゃないかなって。  昔、何かの時に聞いた事がある。  ゆきちんがひとりぼっちになった時、本当なら縁が切れるはずだった血の繋がらない弟のみっちゃんが押し掛けてきて、それからずっと一緒に居るって。みっちゃんが居たからなんとか生きてこられたんだって。  みっちゃんはゆきちんの言葉にとても嬉しそうに笑ってから今俺達が出来る事を指示し始める。 「んじゃ、まずは情報収集とブラフしかけなあかんなぁ」  この家で家事の一切を引き受けてくれてるからみっちゃんがオカン的ポジションかと思われがちだけど、彼は本来参謀(さんぼう)向きな性格だ。家事はただ完璧主義者の彼が誰かの仕事にケチを付けない為に引き受けているに過ぎないし、優秀な彼はそれを完璧にこなしてしまっているだけだ。 「とは言ってもまだ計画も練れてへんからな、耀は翔平に張り付いて相手がどう動くか確認な。たつはストーカーが翔平と耀をつけ始めたら尾行。いざとなったら()る気でいってもええけど極力顔見られへんよに注意するんやで」 「顔もうバレとるけど?」 「第三者機関に依頼出したよに見せときたい」 「あー了解」 「実際に探偵とか使う?」  秀ちゃんが首を捻りながら進言したけど、みっちゃんはそれに首を横に振って答えた。  探偵さんとか見た事ないし、ちょっと興味あったけど。 「それは作戦次第や。こっちは人数多過ぎやし、下手に行動パターン読めへん奴入れると狂いが生じるからな」 「なるほどねぇ」 「圭。名刺使うけどええな?」  名刺?  なんの事だろう?ってゆきちんを見たら、いつも以上の無を貼り付けたゆきちんが頷いた。 「お前がそうするのが良いと思ったなら使え」 「おーじゃあ遠慮無く使わしてもらうわ」  千春君をチラッとみたら、腕を組んで難しい表情を浮かべていたからあんまり聞いたらダメかなって黙った。  やっぱりこういうのって、聞き難いっていうか、ねぇ。 「名刺って何?」  たっき!?  サラッと聞いた!!  ゆきちんがゆっくりとたっきに視線を向ける。いつものとろんとした視線ではあるんだけど、俺はなんでか落ち着かなくてドキドキしてきた。  今更ゆきちんがたっきに腹を立てるとか出て行けとか言うとは思えないけど、親の地雷を踏み抜いてここに居る俺としてはハラハラしてしまう。  この子本当にどこまで豪胆なの!?
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