オンリー ロンリー グローリー

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 先にそれを口にしたのがみっちゃんだったからか、ゆきちんはみっちゃんに視線を向けて頷いた。  説明して構わないって事みたい。  きちんと疑問を口にすれば答えてもらえる。  昔からたっきはそう信じて疑わない。大学時代の耀ちゃんが家に帰ってくる時間が遅くなった時にもたっきはさっさと理由を聞いてしまっていたし、今回もそうなんだろう。  その上で答えを得られないなら、食い下がらずにサッと退く。  信頼している相手だから、話せない事はそれ以上追求しないって姿勢も、相手を尊重する分別(ふんべつ)もきちんと(わきま)えてる。だからこそ俺に耀ちゃんの片想いを黙っていたわけだし。  みっちゃんはたっきの疑問に勿体付ける素振りも見せずにアッサリ答えた。 「圭の父親は政治家や。それも超大物。その人の名刺を何かあった時に使えて俺は貰っとる。ホットラインってやつやな」  政治家?  政治家の人ってそんなに力あったっけか?よその国ならそういう事もあるかもしれないけど、日本てそんなイメージないけどなぁ。 「周りに反対されて駆け落ちして俺が出来た。けど、色々あって別れさせられたらしい。色々は知らん。けど、父親(オッサン)は母親に未練タラタラで瓜二つの俺にまぁ便宜を図りまくってくるわけだけどな、子供ん時から父親が何がする度に周りの大人が萎縮して散々な目に遭ったわ」 「そら大人のパワーゲームの頂点やもんお前の父親。先祖代々由緒正しい政治家の家系でそゆの全部まるっと背負うよに育てられときながら、そういうん全部理解した上で駆け落ちするとかいっそ尊敬するわ」 「こっちの迷惑考えて欲しかったけどな……」 「考えられへんからこその駆け落ちやろ?そのおかげで俺はお前と会えたからそこは感謝してんで」  心底げんなりしたようなゆきちんにみっちゃんはまたカラッと八重歯を見せて笑い飛ばした。  たっきは目をまんまるくしてゆきちんとみっちゃんを交互に眺める。 「俺の親も地方のやけど政治家や。んで、圭の母親が病気で亡くなったあと家を出た圭についてくて言って勘当された」  みっちゃんが勘当!?  俺を受け入れてくれた時にぎゅって抱きしめてくれたのは純粋な優しさからの行動かと思ったけど、もしかしたら千春君からそれを聞いていてそうしてくれたのかも……。  二人がいくつの時の話かは詳しく分からないけど、俺の歳とそう変わらなかったのかもしれない。もしそうなら、ゆきちんとみっちゃんが俺を特に心配して気を配ってくれた事の理由が付く気もした。 「一緒に上京して暫くした頃やったか、黒塗りの高級車にお呼ばれした時には東京湾に沈めらる自分の姿が頭を過って内心ビビりまくったわ。けど、そん時に名刺(それ)貰ってなぁ。そっから何を気に入ったんか知らんけど、たまに一緒に飯食っとるで」 「お前なんていうか、たまに本当に凄いって思うわ」  千春君がはぁあああ……ってため息を吐いた。  名刺を貰ったまでは分かるけど、なんでご飯?ゆきちんとじゃなくて? 「圭の(こと)聞きたくてしゃあないねんな。圭は中々会ってくれへんから」 「俺が会って息子て話題にでもなったら本妻(ババァ)がうっさい」 「そらそうやな」  チラッと確認したら耀ちゃんとたっきが物凄い顔をしてテーブルを見つめていた。  そういう事なら耀ちゃんの家族を作る為にこの家をぽーんっと用意するとか、たっきを保護するとか、そういうのをアッサリ出来てしまった上に戸籍まで弄ってしまった事にも納得出来る。俺の戸籍も千春君の養子になんてどうやったんだろう?って思ってたけど何となく出来そうだなって。  ゆきちんが言う〝便宜を図りまくる〟っていうのは、こういう事をゆきちんの意志と関係なくやりまくったって事なのかもしれない。 「圭の父親の関係者にはまず負けへん弁護士やら腕の良い医者やらも居るし、そらもう顔が広くてな。その中には警察のお偉いさんも居る。今回は何か不測の事態が起きた時に警察に即動いてもらった方がええやろ」 「そうやなぁ。普通はこういうの事件が起きてからでも警察は素早くは動かれへんから、わざと騒ぎ起こさして暴力沙汰で逮捕からの翔平へのストーキング発覚、逮捕みたいな流れの方がええんかも」  たっき……あくまでストーカーをぶん殴りたいんだね……。  さっきまで固まってたのにパッて頭を切りかえたらしい。 「たつ。それ誰かがダメージ負うのが前提や」 「えー?やられる前に俺が返り討ちにしたらええやん」 「アホ!過剰防衛でお前がしょっぴかれるわ」  あー、心底残念そう。 「名刺(それ)なんやけど、ストーカー野郎最初から別件で逮捕とか出来へんの?」  耀ちゃんが腕を組みながら難しい顔をして言う。  多分、無理なんじゃないかなぁって。耀ちゃんもそれは何となくわかってるんだろうけど、一応言ってみた感じらしい。  そんな事が可能ならもうやってると思うし、如何(いか)に力のある政治家さんだって言ったってそれをやれるほど日本の警察も司法も腐ってないと思う。 「空振りが怖いな。それを調べる為のたつの尾行や。あと、こっちの偽の生活パターンを相手に刷り込ませたいねん」 「偽の生活パターンてぇ?」 「いきなり家に三人が帰ってきたわけやろ?相手もそら警戒する。だから暫くはまた翔平の後をつけたりしながらこっちのパターンを探ってくるはず。その期間で相手を調べられるだけ調べる」 「それに別件逮捕しても余程の罪状やなかったら直ぐ刑務所から出てくんで。下手すりゃ執行猶予もありえるから翔平へのストーキングが止むどころか悪化しかねへん」 「むぅ……」  耀ちゃんがもご……って押し黙った。  みっちゃんとたっきがタッグを組んだら、俺等は任せておいた方が無難だと思う。  みっちゃんは間違いなく参謀タイプだけど、たっきは参謀というか……もっとクレバーでダーティーな思考回路を持ってると思う。  何を優先するか決めたら、必要な事をピックアップしてその為に必要なら違法スレスレの手段でも平気で使うイメージ。 「充君、俺達の役割分担は?」 「秀はとにかく定時に家を出て、定時に帰ってきてくれ。あと、庭木に水を撒くとか庭に手を入れてるよな事を見とる奴にわかりやすくやって」 「うん。了解」 「圭も基本は今と一緒や。俺等はもう相手に顔も行動パターンも知られとるからな。今まで通りゴミ出して、圭が出したゴミが回収されたり荒らされてないか秀が出る時に確認して。確認方法は二人に任す」 「わかった」 「千春は敢えてランダムに行動してくれ。恐らく、アーティストの行動パターンなんて相手にもわからんからな。いつ家に帰ってくるか分からへん奴が一人居ればそうそう家に突撃出来へんやろ」 「それは構わないけどな、カメラとか盗聴器残してるだろ?」  そうだ。  ストーカーがお昼にも行動できちゃう人だったら昼間はこの家はノーガードだ。 「そこで残しといた奴等の出番や。それで千春の動きを確認して家に侵入してきたら相手は昼間に動ける。してこなかったら定時が決まってる仕事に就いてる可能性が高い」  なるほどねぇ……。
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