オンリー ロンリー グローリー

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 取り敢えず、作戦会議は終了。  なんだか疲れたなぁって思ったら耀ちゃんが立ち上がってキッチンへ向かう。 「耀ちゃんコーヒー淹れんの?」 「おん。なんか気晴らししたい」 「手伝う~」  コーヒーを淹れてくれるらしい。  耀ちゃんのコーヒーは豆をミルでゴリゴリやってちゃんとフィルター通して淹れるやつだから、コーヒーが好きじゃないたっきでも美味しくいただける。  うきうきしながら耀ちゃんの後ろをついて行ったたっきが豆を選ぶ耀ちゃんを眺めながらケトルを火に掛ける。 「微笑ましい光景だよねぇ」 「ねぇ」  俺の呟きに目を細めた秀ちゃんが同意して頷いてくれた。  千春君がよっこらしょって立ち上がってラグへごろんって転がった。  秀ちゃんはゆきちんと打ち合わせを続行してるし、みっちゃんは電話を掛けに部屋を出ていってしまったから俺は千春君の隣に座ってみた。  やっぱりここが一番落ち着く。  千春君は俺の自立を促す為に家を出て行ったけど、それでも俺は千春君の隣が一番落ち着くらしい。 「おかえりなさい」  膝を抱えて、その膝におでこを付けて呟いた。  千春君の表情は見えない。 「はい。ただいま」  口元が緩む。  ずっとまた一緒に過ごせたらなんて贅沢は言わない。でも、嬉しい。少しでもまた〝お父さん〟と一緒にいられるのが。  俺はまだまだ自立には程遠いのかもしれない。 「様子は知ってたけど、実際に翔平の顔見たらアイツらちゃんと親をやってくれてたんだなって実感したわ」  顔を上げて千春君の顔を見たら、優しく目元に皺を寄せて俺を見上げてた。  やっぱり俺の様子は聞いていてくれたんだ。 「うん」  満足そうな顔を見ると俺も嬉しくなる。  ゆきちんもみっちゃんも俺をちゃんと子供として愛してくれてるよ。秀ちゃんもたまに顔を出して俺達の様子を見に来てくれていた。千春君もそんな事は聞かなくたってわかっているんだろうけど。  ふんわりとコーヒーの良い香りが漂ってきた。  お昼ご飯を済ませて各々自由時間になったんだけど、やり残した仕事があるらしいゆきちんは早々に部屋へ引っ込んでしまって、秀ちゃんは外せない用があるからごめんねって言って夕方まで出かけてしまったし、千春君は時差ボケで辛いらしくてやっぱり部屋へ行ってしまった。  お皿洗いのお手伝いが終わった俺はどうしたもんかと見回したんだけど、なんかレポート用紙を開いたみっちゃんの隣に陣取ったたっきが二人であれこれ話し出したからさっきの続きで作戦を練ってるのかもしれない。  こうなると耀ちゃんがどうしてるのかが気になった。 「ねぇみっちゃん、俺二階上がってもいい?」  カメラで二階に上がったのが誰か分かるんだよね?  耀ちゃんは多分部屋にいるはずだから、行こうかなぁって。 「ええよ。階段の上のコンセントんとこにカメラあるからな。音は拾わんから足音で判別出来へんけど、足見りゃ誰のかくらいわかるから立ち止まらんで上がり切るんやで」  変に立ち止まったら怪しまれちゃうって事かぁ。知っちゃうと知らなかった時みたいに振る舞うのって意識しちゃうかも。  普段そんなに意識して家の中を歩いてないもん。 「耀ちゃんとこ行くん?」 「そのつもりだけど?」 「じゃあ俺二階(うえ)行くの止めとこ」  ニッタ~ァって悪い表情を浮かべたたっきに昨夜のやり取りを思い出して顔がカッカしてくる。  そういうんじゃないから!  別にそういうつもりじゃ……。 「アレする時は気ぃ付けやぁ?声意外と聞こえるし、あ!翔平ゴム持って……(いだ)ぁっ!!」 「あー、小豆ともち米買ってこなきゃあかんかったなぁ」 「みっちゃん!!!」  手元の紙から視線を上げないまま綺麗なチョップがたっきの頭へ振り下ろされた。  ナイスフォローだけど、赤飯は忘れてたならそのまま忘れてて!  たっきのバカ。  階段を上りながらぷんすこ腹を立てる。  だってあんなこと言われたらどうしたって意識しちゃうじゃん。俺は別にそういう意味じゃなくて久しぶりに耀ちゃんのギターが聴きたいなぁって思っただけなのに! 「あ、あれか」  階段を上りきるギリギリの壁にあるコンセントの下に足元を照らす為のライトがくっついてる。みっちゃんが言うにはそこにカメラが仕掛けられているらしい。この位置なら確かに最後の階段を踏んだ足しか見えないね。  意識しなければ気にもしない。足元を照らすライトなんて俺は付けないから更に。そこにカメラなんてどうやってつけたんだろう?俺は盗撮も盗聴も向かないらしくて全然思いつかない。  そういうのってもっと見たらわかるように出来てるんだと思ってた。 「うーん……」  階段を上りきったところで少し距離を置いて眺めていたら、後ろからドアが開く音がした。 「なんかあったん?」 「あ、耀ちゃん」  大股で俺のところまで歩いてきて、俺が見てた物に気が付いたらしくてはぁって息を吐いた。  それから俺の手首をクンッて持ち上げて、そのまま掴んでまたズカズカと大股で耀ちゃんの部屋へ向かう。 「画素数たいしたことないみたいやけど今の時間だと影が映るかもしれへんから」 「あー……」  俺は上りきってから暫く観察しちゃってたもんね。  窓の位置を考えたらどうかなぁって感じだけど、誰かがそこに佇んでる雰囲気って意外と伝わっちゃうものだから侮れない。  なんでもない時に入って眺めた耀ちゃんの部屋は一人暮らしを始めたせいで物があからさまに少なくなってて、一緒に暮らしていた時よりも広く感じる。  以前の耀ちゃんの部屋だったら俺を押し倒すスペースなんてとてもじゃないけど無かった。  耀ちゃんはとにかく持ち物が多くて、部屋の収納スペースに収まらないで下の共用の物置部屋のストレージは耀ちゃんのDVDやらCDやらでいっぱいだ。その辺は俺も人の事はいえなくて、俺の服や小物も共用のウォークインクローゼットに溢れかえってる。  持ち物で言うなら大人組は千春君がダントツで少なくて、次は意外な事にみっちゃんだ。みっちゃんは本当に身軽で、似たような洋服に似たような鞄、それに似たような靴をローテーションで回していて家具や小物は必要最低限しか持っていない。ゆきちんはスタイリッシュな小物をセンス良く部屋に配置してるし、秀ちゃんはちょっとオタクだから本とかフィギュアをきちんと部屋に収めている。  子供組は俺と耀ちゃんはこんな有様だからたっきがダントツで物を持っていないってうか、生活自体がコンパクト。何かあった時に持ち出せるものしか持っていないらしい。何も起こらないよって言っても、これはもう癖みたいなものだからって苦笑いを浮べる。 「部屋なんか見てどうしたん?」 「物が減ったなぁって」  なるほどって頷いた耀ちゃんがデスクから椅子を引いてどかっと座って、俺には視線でベッド座ってって示してくれた。  ラグに座っても良かったけど、それだと二人してくっついて座る事になるから気を使ってくれたのかもしれない。
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