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そういうのをポツポツ零しながら恥ずかしくなってきて、膝におでこをくっ付けてぐぅ……って黙ってしまった。
それからこれだけは伝えないとって頑張って言葉を振り絞ってなんとかあの時の事を口にする。
「あの時……耀ちゃんが助けに来てくれた時、ほんまに嬉しかった……」
心の中ではゆきちんに助けをめていたけれど、姿を現した耀ちゃんに心底ホッとしたんだ。
家に向かうタクシーの中で手を握ってくれたこと、腰が抜けてしまった俺を気遣って抱き上げてくれたこと、俺の不利になりそうな事をどんなにたっきに追及されても言わないまま帰ったこと……それに、さっき知った一人で俺やたっきの為に奮闘してたこと。
その全部が愛しいと言ったら、耀ちゃんは困るかな?
カタッて音がして、耀ちゃんが立ち上がったのが分かった。
ラグは足音を消してしまうから近くに来てしまったらよく分からないけど、俺に近づいてきてるのは気配で分かる。
すぐ近くに気配を感じてどうしようって更に体を小さく縮めた俺の隣りにストンって座った。
「危険な奴に付き纏われとるのに気が付かへん翔ちゃんに焦れとった」
話す言葉の振動すら感じそう。
「ごめん……」
「自分が悪くない時に謝るなって。普通は男がストーカーの被害者になるなんて思わへん。そんなもん気付けるか」
顔を少し上げて腕と髪の間からちろりと横を盗み見たら、思ったより近くに耀ちゃんが座っててまた顔がカァァァッて熱くなってくる。
近くで見るとやっぱり綺麗なんだよね。
昔は綺麗な子って思ったけど、今はあの頃よりもずっと背が伸びて肩幅や胸の厚みも増してすっかり綺麗な男の人に成長しちゃってる。
「焦れついでに押し倒してりゃ世話ないんやけどな」
「え?」
「ストーカー野郎なら家の中に手ぇ入れててもおかしくないよなって気ぃ付いて、それ確認する為にわざと翔ちゃんと距離詰めるつもりではいた。そんでもいざ押し倒してみたら自制心ブチ壊れた」
今度は耀ちゃんが赤くなって俯く番。
これで挑発したって事の内容が分かったわけだけど、自制心が壊れたって言ってもゆきちんの声で我に返れるくらいだからブチ壊れたっていうのは言い過ぎじゃない?
自己嫌悪にでも陥ってそうな耀ちゃんを見て、心の底からあぁ愛しいなぁって胸があったかくなる。
今度は俺から距離を詰めて、ちょっと背を伸ばして真っ赤になってる耳元に唇を押し当ててみた。
「しょっ……しょーちゃんっ!!」
カミッカミに噛んで顔を更に朱に染めながらガバッて俺の方を見た。
俺はといえば目の端っこがカッカして熱くて、泣きそうなような笑い出したいような、変な顔をしてると思う。
「俺のファーストキスの相手が耀ちゃんで良かった」
両想いならもっと早く本当の事を言ってしまえば良かった。
うんん。
こんなことでもなかったら俺も耀ちゃんも一生この想いを口にしたりはしなかっただろうな。
だから、そこにだけはストーカーさんに感謝してやらなくもない。
「覚えてへんのに?」
少しいじけたみたいな表情をしてみせるから、ごめんねってまた頬に唇を押し当てた。
今度は角度を変えて勇気を出して身を乗り出したら、察したらしい耀ちゃんがすっと位置を調整してくれて唇同士がそっと重なった。
「まぁ……もうそんなんどうでもええけど」
俺の肩に耀ちゃんの腕が回って、俺は床に片手を突きながら身を伸ばしてもう一回キスをした。
耀ちゃんのギター胝のある長い指が俺の項を滑って、髪をさらさらといじりながらチュッて音がしそうな軽いキスを繰り返す。
こういうの何ていうんだっけ?バードキス?確かそんな感じ。そんな事でも思ってないと心臓がばくばくうるさくて今にも飛んでいっちゃいそう。
少しだけ体温の低い耀ちゃんの唇がなんだか気持ち良い。
気が付かないくらい少しずつ俺の重心は耀ちゃんの方へ寄ってて、脇の下から回った耀ちゃんの腕が俺の上半身を支えるようにして浮かせる。
どうしたらいいか分からなくて軽くパニックになったけど、そのまま耀ちゃんに任せる事に決めた。
迷っていた間に左の脇の下にも腕が回って完全に腰が浮く。
「えっと……」
もし俺が女の子だったらもっとすんなり耀ちゃんの胡座の間に身を移せたんだろうけど、俺の察しが悪いのと体重のせいでスマートにいかなかった。
「飼い主に伸ばされた猫みたいやな」
「なにそれ?」
「猫がバンザーイしてその脇を飼い主に持ってもらって、にゅ~んって伸びとる動画見た事あって」
「にゅん……」
顔を真っ赤にしながら自分から耀ちゃんの胡座の間に腰を下ろして、耀ちゃんの体を跨ぐみたいにして座り込む。
耀ちゃんはクスクス笑ってる。上半身を伸ばされてる俺を見て、それが猫を連想させて面白かったのかもしれない。
手の置き場に困ってどうするかちょっと迷ってから耀ちゃんの肩に両腕を置いて手はそのまま背中に回してみた。
何度も言うけど、俺は恋愛経験が全く無いからこういう時にどうしたらいいのか皆目見当もつかない。ドラマとか映画のイチャらぶシーンだってそんなにじっくり見てないから、いざ自分がやるとなったら何にも思い出せない。
「困る?」
そんなわんこみたいな上目遣いは反則だと思う……。
首をぶんぶん横に降るので精一杯。
今俺は恥ずかし過ぎてどうしていいか分かってない。でも、嫌じゃない。寧ろ、なんか気持ち良い気すらする。
「困るって言うか、恥ずかし……」
「そうなん?」
首を傾げて見せる耀ちゃんは心底不思議そうだ。
そりゃそうでしょ?こんなにくっついたこと今まで無いし。
近くに居たっていっても耀ちゃんから触れられる事なんて数えるくらいしか無かったんだから。
「龍をよくソファっていうか、座椅子みたいにして足の間に座っとるやん。それとか翔ちゃんがソファ座ってその足の間に龍座って膝の上に凭れてたり」
「はぁ?」
「リビングでテレビ見たりする時に……」
「それ向かい合ってないし、そもそもたっき相手にドキドキしたりしない!」
言った途端に耀ちゃんの額が俺の肩に押し付けられて、ぎゅって抱きしめられた。
あれ?
もしかして耀ちゃん俺とたっきの事なんていうか……その……気にしてた?
俺とたっきはよく一緒に居る。
それは一昔前には距離感がちょっとバグってるって友達から言われた事があるくらい。
しかも複数人から。
具体的には超シスコンの弟と天然の姉貴みたいって。耀ちゃんとは何にも言われた事が無いからたっきの距離感が多分おかしいんだと思うけど。
ほら、あの子ってば普通に秀ちゃんとお風呂入るし?よくみっちゃんにも張り付いてるし、千春君とカーペットに転がってお昼寝してるのもよく見た光景。当の耀ちゃんとだってべったりくっついてゲームとかしてたじゃん。人との距離感があんまり近いと疲れちゃうゆきちんとだって、仕事してるところを見計らって隣に座って勉強してたりするもん。
俺ともそんな感じだよ?
耀ちゃんが言ってるのって、たっきが後ろっから俺を抱きかかえてクッション代わりにしてテレビ見てるアレでしょ?それとソファでテレビ見てる俺の膝の間に身を滑り込ませてきて俺を座椅子代わりにするやつ。どっちも我が家でよく見かけるやつ。
まぁ確かに普通の兄弟じゃあんまりやらないかもしれないけど。
「たっきは大っきいテディベアみたいなもん」
「テディベア……」
「うん。じゃなかったらめっちゃ懐いてくる大型のわんこ」
まだ俺の肩に顔を埋めてる耀ちゃんがはぁぁ……って息を吐く。
耀ちゃんのふわっとした髪が首筋に触って擽ったいんだけどなー。なんかね、ドキドキし始めるし、ぎゅってされてるから体密着してるし、足の置き場にも困ってきた。
これ膝がもうベッドにくっついちゃってて窮屈だから耀ちゃんの体を挟むみたいにして少し力を入れたら安定しそうなんだけど、そうしたら俺から抱きついてるみたいな姿勢になるからどうしようかって……。
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