オンリー ロンリー グローリー

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 皆の食事が終わって人心地吐いた頃、みっちゃんからお昼に話していた作戦の説明が行われた。  ざっくり言うと、期間は約半月を目安にしてストーカーを罠に掛ける。  俺はそこそこの法則性を作って夜の十時過ぎにコンビニへ買い物へ行く事になった。直近の行動パターンを知られているはずだから、連続して見ているドラマややっていれば見ているテレビ番組の無い日を選んでコンビニへ行く事にした。それと、会社の帰りは真っ直ぐ帰っても良いし、会社の人と夕飯を食べに行ったり飲みに行ったりしても良い。そこは今までの俺の行動パターンを崩さない為にも自由にしていけど、必ず行き先をグループチャットへ知らせることが絶対条件。  耀ちゃんは仕事でどうしても外せない時以外は俺に接触しない範囲であとをつける事。耀ちゃんのフォローはたっきが請負うこと。  秀ちゃんとゆきちん、みっちゃんは家の護りに徹すること。  千春君だけはイレギュラー要員として最初からランダムに動き回ること。  これが昼に言われてたことの再確認。  みっちゃんが約半月後の根拠の説明を始めた。 「たつとストーカーの心理について調べてみたんやけど、相手の頭ん中じゃ多分今頃は翔平と上手い具合に知り合って付き合ってたんやろなぁて。それが耀に邪魔された挙句に横取りされたって思い込んでそうやなってとこで意見が一致した」 「盗聴器とかも耀ちゃんが翔平連れて家に帰ってきた夜の後に撤去って最悪のタイミングになったし、そこは間違いないと思う」  耀ちゃんは表情を変えない。  当たり前か。分かっててやったんだって言ってたもんね。 「薬盛ってまで既成事実作りに行ったのなんかかなりリスキーやからな。でも、そこさえクリアしてまえば翔平は情に(もろ)いのバレとるからな、一回寝た相手をなんやおかしいなぁ思っても警察へ突き出したりせぇへんやろって目算もあったはずや」  少しだけ困った顔のみっちゃんに俺はごめん……って苦笑いを浮かべるしか出来ない。  あの時にふと理性が戻らなかったら、耀ちゃんが間に合わなかったら、そうしたらそういう未来は十分にあったはず。  俺は誰かとの衝突を極端に嫌うから、相手がそこを突いてきたら計算された行為だって見抜けずに申し訳なさから付き合ってしまった可能性が高い。  好きでもない相手でも長所を何とかみつけ出して、短所に目を瞑って一緒に過ごす事は昔っから好きじゃないけど得意なんだ。 「ストーカーの頭ん中じゃ今頃は翔平と付き合っていたはずやのに予定外な事が起こり過ぎとる。こうなるともう頭ん中がどうなっとるんか俺等じゃ想像もつかへんなぁて」  まぁ、そうか。  ストーカーからしたら薬を飲ませて既成事実とやらを作ってしまえるって思ってたのに、実際は耀ちゃんに邪魔されてゆきちんとみっちゃんに家の警備をガチガチに固められてしまったわけだもんね。盗聴器とかを撤去されて家での俺の行動が分からなくなったし、本当なら今頃は……こんなはずじゃ……って思いもあるだろうね。  ストーキングをする人の心理なんて分からないからなんとも言えないけど、暴走する可能性が高いってみっちゃんは言いたいんだと思う。 「昨夜の付きまといはストーカーからしたら〝迎えに来た〟つもりかもしれへんしな」 「翔平たまに抜けとるからなー。俺も就職してそこそこ忙しかったし、時間ある時は耀ちゃんのこと尾行()けとったし、ストーカーからしたら楽しい監禁生活(同棲)始めるチャンスや思ったのに、ちゃぁ~んと耀ちゃんにバレとって計算外の千春君にまでしてやられて今頃(はらわた)煮えくり返っとるはずやねん。ここで口に出来ないよなえっろい事考えとったのにご愁傷さまやなー」  たっき……淡々と怖いこと言わないで。  本当ならたっきをシバき倒したいと考えていると思われる耀ちゃんが深く深呼吸を繰り返す。  取り敢えず最後まで話を聞くと決めているらしい。  一生懸命息と一緒に怒りを吐き出して、拳だけテーブルの下でグッと握り締めてる。 「人ってな?そんな長く我慢出来へんと俺は思う。ほんまやったら今頃は上手くいっとったはずや思ったら更にや」  みっちゃんが俺をじっと見つめる。  いつもは人の良さそうなアーモンド型のグリグリとした優しい瞳が真っ直ぐに俺を見つめて、俺はシャンッと背筋を伸ばす。 「どんなに我慢したってし切れるもんと違う。なら、半月ももてばええとこや」 「も一回家に入って盗聴器とかしかけるんは無理やて思っとるはずやしなぁ。千春君と秀ちゃんの存在は完全に予想外やったと思うもん。イレギュラー多発中やってのに情報収集の手段をほぼほぼ失っとるから残された盗聴器とカメラに頼るやろなぁ」  みっちゃんはそれを見越してわざと残してたんだつて思うと、本当に頭の回転力が俺とはかなり違うなぁって思う。 「昨日の今日やから今日はなんもないと思うけど、明日からは今まで以上に気を配るんやで?」  あくまでお母さんみたいなポジションを崩さないみっちゃんに俺は神妙な顔をして頷いた。  自信はないけど、頑張るよ。  たっきの視線がふっとカレンダーに向かったから、俺もなんとなくそっちを見る。 「ゴールデンウィーク前までには仕掛けてくるはずや」 「なんでぇ?」 「こんだけ警戒されとるのに諦めるどころか襲いにくる奴やで?その前に翔平捕まえとけはゴールデンウィークにさぞやりたい放題できるやろなぁ」  背中をぞわわゎゎゎ……って怖気(おぞけ)が這い回る。  そりゃそうだ。普通の神経なら俺は男だし、家族総出で守りに来たら諦めるだろう。  昨夜は千春君や秀ちゃんの存在を知らなかったとはいっても、知ったところで諦めてくれそうな感じはしないな。素直に無理そうだって諦めてくれるならそれに越したことは無いんだけど。  思わず両手で腕を(さす)る俺を気の毒そうに見つめた秀ちゃんがポソッと疑問を零した。 「でも、どこで翔平を見つけたんだろう?」  全員の視線が集中して、視線に緊張しちゃう秀ちゃんがちょっと顔を赤くしながら指をもじもじさせた。 「ただ街で見かけたとか、毎朝電車で一緒になるとか、そういうのだけじゃ翔平の人となりってわからないよね?あとをつけたにしても会社や家はわかるだろうけど、このストーカーの人さっき充君と龍紀が言ってたみたいに翔平の性格を把握して動いてそうだし」 「盗聴器やないの?」  たっきは自分で言って首を傾げた。 「待って。違うわ……秀ちゃんが言いたいのって、家ん中に盗聴器仕掛けよ思うくらい執着しとるのなんでやろって事やんな?」 「うん。見た目が好みなだけでそこまでするかな?って」  みっちゃんもあんぐり口を開けた。  あんまりにも当たり前の事過ぎて秀ちゃん以外全員見逃(スルー)してた。 「最低でも翔平が誰かと話したりしてるところを聞いてるとか、翔平を好きになるだけの理由があるんじゃないかなって俺は思うんだけど」  そう!それ!  〝俺の性格〟なんて家族にとっては当たり前だから、そこに重点を置いていなかった。頭の回転数の異常なみっちゃんとたっきですら当たり前過ぎて〝なんで〟俺に執着するのかその最初の取っ掛りを見過ごしてしまった。  容姿でストーキングする相手を決めるような人はこんな面倒な事態になってまで俺に固執しないはず。もっと好みの相手を見つければいいだけの話だ。それなのに、昨夜俺を追いかけるなんて行動をした。 「怪しいのは会社周辺だろうな」  ゆきちんが食後のコーヒーを(すす)りながら呟いた。  作戦自体に大幅な変更は加えられなかったけど、ちょっと見たくらいじゃ分からないGPSをいくつか持つ事になった。  俺のプライバシーを侵害するのを躊躇ったみっちゃんはそこまではしたくないなって一時保留にしたみたいだけど、ゆきちんは念には念をって丁度良く外出した秀ちゃんに頼んで用意しておいてくれたらしかった。  口にこそしなかったけれど、ゆきちんは最初から俺の会社の人とか近くの店や会社の人を怪しんでいたらしい。  これ、本格的にヤバいのでは?
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