シリウス

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 朝はたっきと家から乗り換え駅まで一緒に行って、会社の最寄り駅からは会社の誰かと常に一緒。帰りは耀ちゃんか、耀ちゃんが仕事でどうしようもない時はたっきか、それもダメなら千春君が会社の近くで待っててくれて、俺から一定の距離をとって見守ってくれるっていう警護体制で平日を過した。  平日がこんな状態だから土日だからって外へ出るのはなぁ……って大人しくしていようしてたら、そんな俺の考えを見透かしたらしい秀ちゃんに買い物へ誘われてしまった。 「今週の土曜日なんだけど、男一人だとちょっと買いに行きにくい物でどうしても必要な物が出来ちゃって。翔平に付き合ってもらえたら助かるんだけど」  こんな言い方をされたら断るなんて出来ない。出来ないけど、イレギュラーな行動をして良いものか少し迷ってみっちゃんに相談してみた。  みっちゃんはもちろん同席していた千春君もゆきちんも外出に制限を掛けなかったし、秀ちゃんが居るなら更に構わないとの事だった。  みっちゃんとたっきが言ったタイムリミットのゴールデンウィークはもう来週に迫ってる。  流石は休日。電車も人が多かったけれど、降り立った駅は更に人で溢れていた。  家族連れが多く行き交う家族向けのショッピングモールを男三人で連れ立って歩いているのが不釣り合いな気もするけど、ここならストーカーが男一人で俺達の後をつけてきていれば目立つだろう。 「こんな人の多いところ久々だぁ」 「俺も最近翔平と一緒ばっかやったから新鮮!」  そうそう、たっきも当然のような顔でついてきた。  ついてくるのは全然構わないんだけど、午前の仕事が入ってた耀ちゃんが物凄く残念そうな空気を纏って家を出る姿に謎の申し訳なさを感じてしまった。  耀ちゃんの事だからたっきがついてくる気満々で用意していたのに気が付いてて、また仲間はずれだって思っちゃったんじゃないかなって。でもそれに対して俺が何かを言っても変な感じになっちゃうし……。  玄関で靴を履く耀ちゃんの背中に向かってもやもやしながら「いってらっしゃい」を言おうとして屈んだ瞬間、振り向いた耀ちゃんがサッて触れるか触れないかのキスをして小さな声で「いってきます」って言って出ていっちゃったのを俺はぼーぜんとして見送ったわけだけれども、耳まで真っ赤だったのは言うまでも無い。  朝だし、コンタクトもまだ入れてない黒縁メガネで、服装だって部屋着のまんまで、髪も軽く()かしただけだし。見た目とかそういうのを考えてしまうくらいには混乱してて、階段を降りてきたゆきちんから「おはようさん」って挨拶をされて我に返ってシャンって背筋を伸ばして「おはよぉ」って微妙な返事を返したら怪訝そうな顔をされてしまった。  たっきの声で朝のやり取りを思い出してまた顔に熱が集まり始めたから首に巻いてたストールをパタパタとして熱を逃がした。  あのやりとりは家の誰にも見られていなかったと思うし、カメラの角度からも外れてはいたけど。俺はこういう事に免疫がないからもんのすご~く恥ずかしいっていうか、むずむずする。 「たまには息抜きしないとねぇ」 「そうそ。変に気ぃ張ってると良くないもんなぁ」 「うんうん。絶えず張り詰めてると切れちゃいけない時に切れちゃうからね」  秀ちゃんとたっきの言葉に頷いて改めて周りを見回したら、土曜日だからか親子連れが多い。天気も良いし、風も強くも弱くもなくてのどかで絶好の買い物日和。  小さな子にぶつかっちゃわないように気を付けないと。  本日の買い物のメイン。秀ちゃんのお買い物は全く予想外の物で、俺は顔に出さないでとっても驚いた。  確かに男一人で買い難い物だって言ってはいたよね。うん。だから、スイーツか何かかな?って思ってた。  たっきは別に気にした風もなくいつも通り飄々としてる。 「女の子の服?」  それも赤ちゃんとか、小さい子の。  俺の知る限り秀ちゃんに子供は居ないし、兄弟との連絡もとっていないはず。 「うん。俺ね、子供いたらしくて」 「へ?」 「充君経由で知って、ちょっと事情があって言えなかったんだけど」  今サラッとすごい話されてない?  ちらっと横目でたっきを見たらちょっと動揺してるっぽいけど、それは俺だから気付く程度。ごくごく微かにしか漏れ出てないのは流石だなって思う。  人の多いこんな場所で話して良いのかと思ったのが顔に出たらしくて、秀ちゃんは少し休憩しようかって少しお値段のするオシャレなカフェへ向かった。  そういうカフェっていうのは小さな子供がほぼ居なくて、居るのは近所のマダム風のご婦人達と買い物の休憩中っぽいカップルとか若い女の子の二人連れが穏やかなランチを楽しんでる。  男の三人連れってちょっと目立つからかな?奥の目立たないL字型のソファと椅子が一脚の席に案内されて、見晴らしの良い窓からは近くのビルと遠くの住宅街がスコーンと見渡せる。  一番奥の席が俺で入口側のソファ席に秀ちゃんその間には買い物してきた荷物、椅子にはたっきが座った。やっぱりたっきが一番身動き取れる席に座るんだなって思った。  そういうのって負担じゃないかなって思ったりもするけど、そんな事を言おうものならたっきはきっとぶすくれてしまうからその厚意をありがたく受けておくことにする。  ランチメニューはいかにもSNS映えしそうで、女の子やカップルが多いのも頷ける。 「うーん……翔平なんにする?」 「メニューの名前だとイメージつかないから写真ついてるやつかとにかく正体がわかりそうなやつ」 「あれ?翔平でもわからへんの?」 「わかるか!」  キラキラしそうな横文字の名前の料理とか、凄く写真映えしそうな食べ物が出てくるんだろうなぁっていうのは分かるけど、具体的にどんな食べ物が出てくるかなんて分かりっこない。写真からおそらくはオムライスが推しのお店なんだとは理解した。それくらい。  たっきはたまに俺を女の子かなんかと間違えてるんじゃないかって発言をしてくるけど、俺はファッションとかコスメとかちょっと女の子の方が好きそうな物が好きなだけで流行りの物には詳しくない!!  女の子扱いしてるわけじゃないのはわかってるけど、たまに顔を出すこういうの扱いがね、兄ちゃんじゃなくて姉ちゃんだと思ってないだろうな?って疑問符を浮かばせてくる。  そんな俺とたっきを秀ちゃんが優しい顔で眺めてる。多分、微笑ましいなぁとか思ってるんだろうなぁ。  俺は複雑なのになぁ。
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