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全員の視線を集めてるのにみっちゃんはあくまでみっちゃんのペースを崩さない。
「んー……やっと動くん?」
さっきまで拗ね拗ねに拗ねてたはずのたっきがムクっと起き上がって自分の席に向かう。そして、思いっきり椅子を引いてゆきちんのパソコンから伸びてたコードをコンセントからスコンッて引っこ抜いた。
これにはゆきちんは眉のひとつも動かさずにサッとデータを保存してパソコンをパタンと閉じてしまった。
「あ、ごめん」
「いい。足引っ掛けると危ないからコードとって」
「はい」
たっきにつられるように秀ちゃんが立ち上がって、千春君もおっこらしょって身を起こす。
チラッて見た耀ちゃんに視線で行くぞって言われた気がして立ち上がろうとして足が痺れててコケる。
「おわゎっ?!」
痺れて太腿に力が入らなくて思わず体を支えようとした手が突いたラグの毛は無情にもチュルリと滑って、顔面から倒れ込みそうになったところでお腹のところにスルッと腕が回った。
それでそのまま耀ちゃんは俺を当たり前に肩に担いで、歩いて数歩の食卓へ向かう。
こんなこと前にもあったなぁ。
「翔平それわざとやってへん?」
「してへんわ!」
食卓からたっきにツッコミ入れられてつい反射的に怒鳴る。担がれてるせいで顔が見えないけどたっきの声は俺をからかう気満々だから腹が立つ。
そういえば前にコケそうになった時って耀ちゃんと二人きりじゃなかったっけ?
耀ちゃんは慣れたものでたっきを綺麗に無視して、俺の椅子をガッタンて引いて席へぽ~んて座らせて自分の席へ座る。
流石に皆の前ではお姫様抱っこはしてくれないらしい。
席に着いて真正面から見たたっきの表情ったらもー!
「えー。昔っからそそっかしいのは知ってるけど耀ちゃん居ないとそこまで酷くないやん」
「はぁ?」
「コケるってか、せいぜいつんのめる程度やん。雪とかで滑っても自分で踏ん張るか綺麗に着地しとるやん」
「はぁああ?」
「うぅっわ!無意識の確信犯や。アホらし。もーええわ、ミツ君さっさとはじめよ」
「なにが?なんのことぉ……」
「翔平」
千春君に窘められて俺は黙ったけど、ニタニタ笑うたっきを後でシバくと固く心に誓った。
あのニタニタ笑いはそういう意味だ!絶対!!
ゆきちんが息を吐いたタイミングで耀ちゃんがスパンッ!てたっきの頭を叩いた。
そういえばたっきに俺への片想いをいじられた時くらいから耀ちゃんはたっきを軽く叩くようになった。それまでの我が家では冗談でも手が上がる事が無かったから、恐らくあの時に耀ちゃんの中の心の箍が外れたっていうか、何かのリミッターが振り切れちゃったんだろうなぁ。
まぁ軽いツッコミだし、相手は悪い子状態のたっき限定だから誰も止めないし、俺も毎回調子に乗りまくるたっきが悪いと思う。寧ろもっと昔にどつかれててもおかしくない。よくぞまぁここまで許してきたなって尊敬すらする。
「……暴力はんたぁ~い」
「ミツ」
千春君が分かりやす~く深いため息を吐いた。
みっちゃんは別にいつもの事って感じで気にも留めない。
「んじゃ話すか」
完全無視。
今から話す内容を考えたらそりゃまぁそうだよねぇ。
「まず、秀の事情は聞いたな?」
俺とたっきはみっちゃんに向かって頷く。
秀ちゃんの顔はなぜだか見られなかった。
「そゆ訳で、短期決戦や。今日はゴールデンウィーク前の三連休で土曜、明日の夜仕掛けて引っ掛からなかったら月曜にもっぺん行く」
「……不本意だけどな。さっき翔平が風呂で盛大に泣いてたの聞かれてるだろうから奴さんは引っ掛かるだろうな」
思わず千春君の顔を見る。
本当に不本意そうだから盗聴器の存在を忘れていたんだろう。千春君にしてはかなりのうっかりミスだけど、俺は芝居とかは向かないから結果的に良かったんじゃないかと思うんだけど、本人は苦りきった顔をしてる。
千春君は俺の感情を俺の意思と関係ないところで利用した形になった事が嫌なんだ。
「それファインプレーやで」
たっきはそんな千春君に気が付いてるだろうに満面の笑顔を浮かべて親指を立てた。
「耀ちゃんとなんかあったかてストーカーの奴うっきうきで接触してくるやろなぁ……痛っ!!」
耀ちゃんがノールックツッコミを入れた。
バチンッ!て音が少し大きかったから内心どつきたかったのを軽く叩くに留めたんだろう。
「たつの言い方はアレやけどそういう事や。最初から三連休で決めとこかて計画してたしな。翔平の会社は運良く信頼に足る協力者が出来て家に居る以上に鉄壁の防御を敷いてくれたのがデカいわ」
みっちゃん曰く、先輩が俺の為にしてくれた数々の事は本当に的確で、通勤時間くらいしか俺に隙が出来ないらしい。その通勤時間も朝はたっきが誰が見てもわかるくらいベッタリくっついてるし、乗換駅は人が多過ぎる。会社の最寄り駅からは会社の人と一緒だし、昼だって一人にはならない。帰りは姿が見えなくても耀ちゃんが近くに居る事くらい向こうも気が付いてるだろうって。
そこで俺の〝夜の散歩〟だ。
「アチラさんはカメラと盗聴器をコッチが撤去しきれなかったって認識しとるはず。もし一歩上手で罠やて認識しとっても、あるもんを利用しない手は無いやろ。翔平が外出る時に他の家族が全員家に居るのがわかりゃええんやから」
「そりゃそうやけど、一瞬でも翔ちゃん一人にするん?」
耀ちゃんが腕を組んで難しい顔をした。
前の俺なら一人でも大丈夫!とか言っちゃってたと思うけど、今はもうそんな事は言わない。
人には得意不得意があって、俺は危険察知能力や他人との揉み合いになった時の反撃手段に乏しい……というか、無い。
無いからそういうのが得意な耀ちゃんやたっきに任せる。信頼して任せる事は恥ずかしい事じゃない。
「先に裏から千春と秀とたつが出る」
「外で張ってるん違うか?」
「織り込み済みや。千春も秀もアチラさんはまだ見なれてへんからな。暗闇に乗じて時間差で先に裏から出て、二人はお隣りさんの庭を抜けさしてもらって道路へ出る」
お隣りさん……。
なんて説明したんだろう……。
「たつはそのまま待機。ストーカーが翔平をつけたかどうかを確認して俺等に報告。こういう気配察知はお前か圭が得意やけど、圭はストーカーの顔が判らんからお前が行け」
「りょーかい」
あ、今悪い顔した。
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