ゼロ

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 いつもだったら大人組も居るし、恥ずかしがってあわあわしちゃってただろうけど今は不思議とそんな風にはならない。 「そうかな?」  結婚ねぇ。  俺は出来ないからなぁ。あーでも将来的に同性婚が認められたらそれもありなのかな?よくわからないな。  その時は二人ともタキシードを着る事になるのかなぁ?俺がドレス着てもなんか変だし。自分から着たいと思わないし。 「まぁ、ええけど」  とんがってた唇が元に戻った。  それからごろんって仰向けになってソファの背凭れに腕を引っ掛けて器用に上半身を起こして俺の後ろへ声を放る。 「翔平は一生一緒居るつもりやって。良かったなぁ耀ちゃん」 「はい?」  なんだって?  思いっきり振り向いたせいで腰がビキッていって()りそうになった。 「あいたたたた……」 「なにしてんのもー」  崩れ落ちた俺の腰をたっきが撫でてくれる。ちょっと押してまだ本格的に攣ってない、攣りかけ!こんなとこ攣るって器用やなって大笑いする。大笑いしながらも張っちゃった筋肉を緩めてくれるけど痛いし辛い!  涙目で確認した耀ちゃんはまだ髪から雫を零していて惚けた顔をして固まってた。俺の視線に気が付くと慌ててバスタオルで顔を隠して、そのままずりずりと後退して風呂場へと消えてしまった。  ぱたん……って小さい音がしてお風呂場へのドアがぴっちりと閉まった。 「鎖骨辺りまで真っ赤やったけど逆上(のぼ)せたー?って、そんな長風呂してへんけどな!」  たっきがケラッケラ笑う。  悪魔か!  確かにそのまんまでいてくれとは言ったよ?  言ったけど!  これ続行かぁ。  大人組は俺達を微笑ましそうに見るばかりで止めてくれる気も何かを言う気も無いようだった。  夕飯も食べて、外へ出る支度を済ました。  頻繁に二階と一階を行き来したらバレかねないから服は前もって一階の空き部屋に用意してあった。俺だけはいつも通り二階で用意してきて、降りたと同時に皆の服装を確認した。  もし刃物を振り回されても大丈夫なように手持ちの中で頑丈で厚みがあって動きやすい、暗闇に溶けるような黒い服。それぞれバッチリ決まっててスパイ映画とかみたいでテンションが上がっちゃったけど、またたっきに何か言われちゃうから頑張って心の中に収める。  特にゆきちんは普段こんな服を着ないからレア!  ピッタリとした黒いタートルネックにベルトのいっぱい付いたジレを着て、シンプルな黒いパンツがスラッと長い足を際立たせてる。  聞いたらジレに見えてるのは防弾チョッキみたいな役割の服らしいんだけど、そうは見えない。外に出る時にはこの上に黒のロングコートを羽織るって聞いて、またテンションが上がりまくる。だって、その姿でアクションやったら絶対格好いいに決まってる!想像した以上に色素の薄いゆきちんのブラックコーデはスタイリッシュに仕上がっててすごく好きなやつだし、後で写真撮らせて欲しいなぁって。  思わず目を輝かせて周りをくるくる回って見ちゃって、そんな俺を困惑したゆきちんの視線がどうした?って風に追いかけてくる。  千春君達大人組三人がそんな俺をやれやれ……って風に見てるのに気が付いてピッと動きを止めた。  たっきと耀ちゃんは中にバイク用の薄いプロテクターの上下を着込むらしい。今日出かけたゆきちんが買ってきた物で、いざって時に二人は止めても突っ込んでく可能性が高いから用意したんだって。  それだってナイフくらいの刃物の斬撃ならまだしも、サバイバルナイフみたいな攻撃性が高い刃物や一点集中の突きにはあんまり効果が期待出来ないから無茶は厳禁だってきつく言いつけてた。 「お前は通常運行やな」  俺の格好を見たみっちゃんの感想。  皆とは対照的に家族が見失わないように派手で見つけやすい格好を身に付けてる。  空色に白い雲が浮いてる柄のフリース素材のパーカーに、青から白へのグラデーションが入ったスウェットパンツ。暗闇でもこれでもか!って目立つかなって。 「でもこれなら俺や千春君の位置からでもしっかり分かるよ」 「見えやすい服とは言ったけどな、俺は白とかそういうもんかと思ってたわ。まぁ翔平らしいっちゃ翔平らしいか」  あー白ね。  無くはないけど、真っ白ってなんか俺はあんまり着ないからなぁ。なんとなくだけど、白は似合わない気がして。 「(おとり)やから派手くらいでええんちゃう?で、中何着てるん?」  ジャッてパーカーのファスナーをたっきが勢いよく下ろして、瞬時に耀ちゃんから一発貰って崩れ落ちた。  ファスナーは同じタイミングで一番上までスッと上げられた。 「耀ちゃん酷い……」 「ただのインナーだよ」  皆の前で裸になるのにだって抵抗はないんだけど、耀ちゃんはあるらしい。  首元まできっちり上がったファスナーを少し開いて、中の萌黄色(もえぎいろ)のインナーを少し引っ張って見せてあげる。こんなの見たがってスコンッて手刀をもらってたら割に合わないんじゃない? 「翔ちゃん警察酷くない?」 「酷くないと思う」  珍しく千春君からお言葉を頂戴してたっきが唸る。  納得出来てないな?  十時までまだ時間があるから、各々自由にくつろぐ。  時計を見つめてそわそわしてるのは俺だけらしくて千春君はいつもどおり転がってるし、秀ちゃんはその隣でゆったり足を伸ばしてテレビのバラエティを眺めてる。たっきはソファで俺の膝で欠伸をしながらやっぱりテレビを見てる。 「あれ?みっちゃん達は?」  三人は後発組だから千春君達が出てからでも良いんだけど。っていうかまだ時間的に早いんだけど。  耀ちゃんはともかく、ゆきちんとみっちゃんの姿が見えないのが気になる。 「けいちんと耀ちゃんは二階から出て裏から入ってくるはずだけど」 「二階から?」  家に非常階段なんかないけど。  カシャカシャ……って微かな音がして、家の裏手からズシャッて聞き慣れない音が二回した。何の音だろう?って思ってたら何かがシュルシュル擦れるような音がして、暫くして三人が奥の部屋の中へ入ってきた。みっちゃんとゆきちんは大きなビニールの塊を二人で部屋へ引き摺り込んだ。  え?本当に二階から降りたの?どうやって? 「思ったより体力使うなこれ」 「ほんまに……」  降りたんだぁ……。 「おつかれちゃん」  秀ちゃんがにっこり笑って労う。 「どうやって降りたの?」  二人は顔を見合わせて深いため息を吐いた。  あんまり聞いたらダメだった? 「ミツの考えは俺等の体力過大評価してるとこあるからお前等も気を付けろよ……」  そうい言うとゆきちんは珍しく千春君の隣りにごろんと転がっちゃった。  耀ちゃんに目をやったら俺のところまで来て(しっぶ)い顔をして寝転んだたっきを見下ろしてから、俺の足の横にどかっと座った。 「けー君達の部屋の下に膨らましたマット敷いて、窓枠からぶら下がって体勢整えて、壁蹴って受け身取りながらそこ目掛けて飛び降りた」 「危なっ!」 「下にミツ君が居て補助してくれたから」 「なるほど?」 「つっても下手に下入るとぶつかるからマットの位置調整くらいやけど」  つまり、飛ぶのも落ちるのも基本は自力なわけね。  怖いなぁそれ。 「翔平悪いんやけど俺等の部屋の窓閉めてきてくれ」 「はーい」  そっか。カメラを見てたとしたら上がったきり降りてきてないゆきちんと耀ちゃんは〝二階に居る〟んだ。でもって、二階へ行って降りてきても俺なら問題ない。  たっきと耀ちゃんをどかして二階へ向かう。 「電気はつけっぱなしな。俺そこで電話しとるからなんかあったら声出すんやで?」 「うん」  カメラの死角に立ったみっちゃんがひらひらと手を振る。  開けっ放しの窓から見た一階は明るい昼間に見るよりもずっと距離があるように見えてブルっと震えた。  ここを飛び降りたのかぁ。  家は天井が高いから二階って言っても結構高いと思うんだよねぇ。
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