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 噂によれば、パンフレットや申請書を取り寄せたりして「私じゃなくて主人がね」と前置きし、目を泳がせつつ移住計画を進めているそうだが、果たして順応できるかどうかと首をかしげる。  その旨を友人に話すと「まあねえ、あの子って昔からしたたかだったじゃん。なれなれしいし、私は距離をとっていたから」なんて今更なことを打ち明ける。  十五年前の当時、四十路すぎても恋人はおろか結婚相手などいないし、ひとりが気楽だと言っていた友人はミミによって変な噂まで広められ、役員に呼び出されたこともある。   「あの時は驚いたよねえ、親から譲り受けたマンションだって総務部にも申告してたのに『愛人をやっていて、男から貢がれた部屋なんだ』とかいう話が飛び交うし、相手がわからない子供をこっそり育てているから副業しているんだとか、わけわかんないよ。事実無根だし、権利関係の書類も確認してもらって、謝られたからいいけどさ。さすがに副業は『ちゃんと部署で申告してくださいよ』って苦笑いされたけどねえ」  そのせいで賞与が少なくなったのに、友人は「こういう時のためにしていた副業よ、まかないつきで、しかも激ウマ」なんて悲嘆にくれることなく、ファミレスのキッチンで調理補助するバイトがなかなか気に入っていて、移住する前日まで続けていたというから驚きだ。おかげで料理のレパートリーが増えて、欧米やアフリカ諸国から来た移住者とのランチパーティーでも評判がいいそうだ。 「ミミは嘘も本当も混ぜ合わせて、うまく広めることだけは長けていたもんね。仕事もしないで、やっても簡単なことばかりして、責任や悩みからうまく逃げてた。そのくせにできる女アピールばっかりで、ちょっと鼻についてたんだよ。いまだに成長しないし、なにも変わっていないからむしろ感心しちゃった」 「どういうこと?」  ノンアルコールモヒートが入ったグラスを持ち、一口飲む。  ミントは強いから、月の土でもよく育ってくれて嬉しい。  近所におすそ分けしたら、肉の香草焼きにハーブティー、ゼリーにチョコミントクッキーといろいろな食べ物に変身して戻ってきてくれた。おかげで食事にも、お茶菓子にも困らない毎日である。
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