3

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

3

「ああそうか、この話まだしていなかったんだっけ。ミミがさ『今年の夏までには移住したい、どうにかならない?』って今頃になってメールで泣きついてきたのよ。手続きとか、その他もろもろを私に代行してほしいってほのめかすような言い方していたし、面倒だから適当にあしらっちゃった。だって、あんな奴を推薦したら私がマイナスイメージ持たれちゃうじゃん」  確かに、友人の言う通りだ。  移住の決め手は申請書にある「他者からの推薦項目」の欄に記載があるかどうかも、重要な審査基準とされている。コミュニケーションを円滑に行えるかどうかは、月で移住して生活することにおいて、地球よりも重要視されるケースが多い。    友人は私より先に移住し、職場では嫌な噂をミミによって広められたけれども仕事はそれなりにきちんとしていたらしく、悪口とかも苦手だから詮索することもない態度がプラス評価され、直属の上司と役員による推薦文には「ええ?私こんなんじゃないから」と本人が驚くような、べた褒めとも言える内容が記載されていたらしい。  逆に職場を混乱させ、仲間に迷惑をかけたことを指摘されたミミは、主任によってきつい「お叱り」を受ける羽目になった。    芝居だけは長けていたミミであったが、主任の叱責はメッキがはがれるきっかけとなり、周囲からひとり、またひとりと離れていき、やがて孤立していくこととなる。 「ひどい、ミミは悪くないんだからって泣きつかれた男性社員もいたらしいよ。自分が蒔いた種なんだから、自分で刈り取るしかないのに。泣きつけば、どうにか助けてもらえるって甘く考えてたんだろうね」 「挙句の果てに主任からパワハラを受けた、なんて人事に泣きながら相談してさあ、あることないこと言いふらす暇があったら仕事しろって注意されたんだから、パワハラもなにもないじゃん」  本当だよね、と私は泣き腫らした目で給湯室に居座ってしゃべり続けては「私は悪くない、主任が私にあたり散らしたんだ、証拠もあるんだから」なんて言って、いつ買ったかわからない旧式の、妙に横幅のあるICレコーダーを出していたっけ。  同じような形のやつ、おもちゃ売り場で見かけたことは、黙っておいたけど……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!