私が「おめでとう」と言われた理由

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1  目を覚ます。自室のカーテンからは朝の光が差し込んでいる。ベッドから上体を起こし、軽く伸びをする。ポカポカと暖かく、晴れやかな気分になる良い朝だ。傍らにある目覚まし時計を見ると、午前6時半。私にしては珍しく早起きが出来た。  私はベッドから降りて、ドアを開けて自室を出た。階段を降りて、リビングに向かう。父はまだ寝ているかもしれないが、母は早起きなので、この時間帯でも起きている筈だ。いつもは午前6時から台所で朝ご飯の準備をしており、午前7時半に私が起きて、寝坊助の父が慌てて午前8時にリビングに降りてくる。平日の朝はこの流れがルーティンのように繰り返される。 「母さん、おはよう」  リビングのドアを開け、必ず台所に居るであろう母に声を掛ける。  ガシャンッ!  母の手に持っていたお玉が床に落ち、派手な金属音を響かせる。母は驚愕の表情で私をじっと見つめている。 「……嘘でしょ。 咲夜(さくや)なの?」  母が私の名を呼びながら、一歩ずつゆっくりと近付いて来る。何か信じられない物でも見たような反応。炊事途中の濡れた両手で私の両頬を撫でまわす。 「わっ……ちょっ……何なの? いきなり……」  母の両手を振り解こうとすると、今度は背後から父の声が聞こえた。 「おい、どうした? 何か大きな音が聞こえたが……。うぉぉっ!」  何が「うぉぉっ!」だ。実の娘の顔を見て驚くなんて、失礼な父親だ。睨みつける私に構わず、父は私を抱き締めた。 「ちょっと! 急に何なの!」  父の体を引き剥がして、今度は私の方が驚かされた。父も母も泣いていたからだ。涙ぐむとかのレベルではなく、大号泣という言葉でも足りない程、二人の顔は涙で濡れまくっていた。 「そうか……。本当に咲夜なんだな……」 「そうね……。本当に良かった……」  手で涙を拭いながらしゃくり上げる母の背中を父がポンポンと優しく叩く。さっぱり話が見えずに混乱している私に、ようやく二人は向き直って私にとある言葉を告げた。しかし、その台詞は一日を始める為の朝の挨拶である「おはよう」の四文字では無かった。 「「咲夜、本当に」」       
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