焦燥

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 さらに運の悪いことに、その影響かは定かではないが、一時間ほど前から停電が発生していた。明かりと暖は石油式のストーブだけ。これだけ雪が降っているのだから、外に出しておけば食料が腐るということはないけれど、長期戦が出来るほどの蓄えがあるわけでもない。  つまり、このログハウスに宿泊している客は立派な遭難者となってしまったわけだ。  幸運なことに緊急用の連絡手段は生きていて、この災害を重く受け止めた行政は、迅速な対応をみせ、明日の早朝に救助を向かわせてくれるという。幸運というのは他の旅行者にとってだけれど。  私はひっそりと眠る妻を見つめながら、ようやく自分の犯した罪と向き合う覚悟をし始めていた。 「本当に私がいけなかったのだろうか?」  妻に反応はない。蝋人形のように固まった妻の身体を見つめながら、ふくよかになったものだ、と思った。同時に私の腹の底に黒いものが溜まっていく。先が優先されるというなら、妻は越された私に責任があると言いたかったのだろうか。妻のお腹には純白の色のものが降り積もっている。それは私にとって妻の最大の裏切りであった。
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