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2話 訪問者
「ああ」蒲はニンマリと笑い答えた。
「ああ?家の場所を知っているの?」
「一度、来たから、夏梅は知らなかったの?」
「いつの間に…。準備万端、整っているのね。蒲のそういう所が嫌いだわ」
「そういう所って?」
「人を試したり、謀ったり、利用したり悪ふざけが過ぎるのよ」
「悪ふざけか…。今の夏梅にやったら何が起こるか、わからないな」
蒲が僕を見た。
「蒲って、子供の頃からそうやって、私の男を奪っていくのよね」
夏梅が牽制球を投げる。
「おい、あいつはオレのだ。お前のじゃない」
蒲はすごんで見せた。しかし、そんな蒲の行動に少しも動じずに夏梅は
「ええ、そうですね。私の彼氏ではございません。塁~」と僕を呼んだ。
僕はここにいるのに夏梅は遠くを見た。蒲が僕を見て複雑な顔をする。いつもの事だ。夏梅はため息をついてから
「ようは手を出すなって言う忠告も含めてなんでしょ。わかっていますよ。くわばら、くわばら」と、言いながら、黙っている蒲に向かって、夏梅は〈えんがちょ〉を切った。
「夏梅様はさすが余裕ですな」
「雄なんてみんな同じ。海は広いが釣れるポイントは決まっている」
夏梅はそう言い捨てると、蒲がたたんでいた洗濯済みの山から、蒲のボタンダウンプルオーバーシャツを引き抜き、下着の上にひっかけて二階に向かった。
「あ!おい、それ高いやつだから返せ」
「はーい」遠くから返事だけ帰って来た。
「また、返事だけかよ」蒲がイラつき、僕を指さして
「おい、お前、塁、夏梅をちゃんとしつけろよ」と怒鳴った。
また蒲は無理な事を言うものだ。昔から変わらない。
【ガチャ…】
真夜中になって玄関から音がした。そしてドアが静かに開いた。天十郎だ。靴も脱がずに玄関に立っている。蒲の奴、玄関の鍵を閉め忘れたか?そのうち、僕の足元に座り込んで独り言を呟き始めた。
「今日はね、満月ですよ。夜の梯子酒もいいでしょ」
かなり酔っぱらっている。
「満月がどうした」
僕は暇つぶしに酔っぱらいの相手を始めた。
「僕はね。蒲が好きなのに女を抱きしめました。あー。なぜか嫌悪感がなかったのですよ。困りました。戸惑いますよ」
「夏梅の事か?」
「浮気をした気分。ただ抱きしめただけなのにね。どう思います?」
「どう思う?って、夏梅を抱きしめて無事にいられただけでも奇跡に近いけどな」
「あの女、ほんとに気持ち悪い、SEXをしたがる」
「夏梅が?」
「おい、茂呂社長って知っているか?」
「知らねえ」
「蒲がさ、蒲がいつでも、おいでって、優しいだろ?」
家の鍵を玄関ホールの電球に照らして影をつくって眺めている。
「合鍵を渡しやがったな。蒲が?優しいね…。まあ、せいぜい気をつけなよ」
僕はため息をついた。
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