オセローの孤独

10/11
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「あれは君に嫉妬させて、迫力のある演技をさせるための作戦だったんだよ」  そうだったのか。これが虹川マジックか。春樹はショックも受けたが、真実を知ってほっと安堵した。獅子夫と美緒が付き合っているというのはデマだったんだ。  しまった。俺は獅子夫の悪口を言ってしまった。しかもテレビで。遅いかもしれないが、獅子夫に謝ろう。そうだ、この場で。 「春樹、そういうわけだ。気分を悪くしたと思うけど、これも『オセロー』の成功と春樹の脱皮のためと思って、許してくれ」  春樹は心の動揺を静めて、口角を上げた。 「許すなんてとんでもありません。虹川先生にはいくら感謝しても足りないくらいです。ご指導本当にありがとうございました。」  ここで春樹はひときわ深くお辞儀をした。それから獅子夫と美緒のいるテーブルを見つけて、ゆっくり歩いて行った。 「獅子夫、さっきはテレビのインタビューでお前のことを悪く言ってすまなかった。司の言葉を鵜呑みにしてお前のことを疑っていたんだ。申し訳ない」  春樹はそう言って獅子夫に頭を下げた。顔を上げたとき、ひょっとして獅子夫が殴りかかるのではないかと思い、気配をうかがった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!