オセローの孤独

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 虹川は眉間に皺を寄せたまま、これ見よがしに大きな溜め息をつく。 「よし、十分休憩」  虹川は大股で稽古場の中央のディレクターチェアーにどっかと腰を降ろす。春樹は美緒と二人、右隅のパイプ椅子に座り、水分補給をする。 「春樹、元気を出して。この芝居にかけるあなたの情熱はみんな認めているわ。だから自信を持って」  そこにイアーゴー役を務める村上獅子夫も寄って来た。春樹と同じアイドル系のグループの一員で、春樹と同様今回の芝居で歌手から俳優への転身を目指している。獅子夫は小声で言った。 「春樹、気にすんなよ。虹川さん、今朝から機嫌が悪いだけだ」  春樹は二人に慰められても心は沈んだままだった。主役という大任の重さに押しつぶされそうだった。虹川は演劇界では押しも押されぬ大物だ。何人もの無名の俳優が虹川によって演技派として成長を遂げたことはすでに伝説となっており、その虹川の手腕は虹川マジックと呼ばれている。どうすれば虹川の望む芝居ができるんだろう。毎日毎日俺のせいで稽古が止まっている。他の劇団員たちの視線が痛い。きっと素人同然の俺の演技を笑っているんだろう。
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