オセローの孤独

3/11
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 その日は結局、予定の午後五時には稽古は終わらず、七時過ぎまで続いた。  翌朝開始時刻の九時前に虹川は春樹を演出家室に呼んだ。 「春樹、この劇団の稽古場でする立ち稽古は、十五日間しかないんだ。もう四日経ったが、 お前はまだ俺の要求するレベルに達していない。お前を見ていて気づいたことがある。お前と獅子夫と美緒は仲が良すぎる。私生活が舞台に出てしまうんだ。だから今日からあの二人との会話を厳禁とする」  予想もしなかった虹川の言葉に春樹は狼狽える。 「それはあんまりです。それくらいの区別はできるつもりですが」  虹川は鋭い眼光で春樹をにらんだ。 「それはな、一人前の役者が言う科白だ。お前には百年早い。いいな、今日から二人との会話は禁止だ。そしてその理由も二人には話すな。話せば意味がなくなる。いいな」  その日から春樹は休憩時間はいつも一人で過ごすようになった。獅子夫と美緒が春樹に声をかけても、春樹は返事すらしなかった。自然と獅子夫と美緒が二人で話す時間が増えていった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!