オセローの孤独

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 他の団員たちは春樹に遠慮しているのか、近づいて来ない。春樹はますます孤独になっていった。ただ、団員見習いの山崎司だけは春樹に何度無視されても懲りずに、まるで付き人のように春樹にまとわりついた。春樹も司とだけは言葉を交わした。  八日目の午後の稽古はまた荒れた。虹川が春樹を罵る。 「春樹、何だ、その科白は!」  虹川は左手で固く握りしめた台本を春樹の顔に真っ直ぐに向けた。 「春樹、この第三幕第三場はヤマなんだ。オセローはイアーゴーの奸計に乗せられて、デズデモーナに対する疑念が、ますます大きくなり、ついに愛情にまさってしまう場面なんだ。その微妙な移行がお前の科白にはない」 「……」 「よし。十分休憩だ」  春樹が傷心のまま左の隅に座る。すかさず司がやって来る。 「春樹さん、気づいています?」 「何のことだ?」 「最近獅子夫さんと美緒さん、やけに親しいですよね?」  いぶかる春樹に司は声を潜めて畳み掛ける。 「美緒さんは春樹さんの恋人ですよね? それなのに獅子夫さんはまるで美緒さんの恋人みたいに振る舞っていますよ」  春樹は眉を顰めた。
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