オセローの孤独

「美緒が誰と話そうが美緒の自由だ。獅子夫は俺の友だちだ。だから、俺は一向に気にしない」
　司はいっそう声を潜めて上目遣いに春樹を見た。
「それにしても仲が良すぎますよ。団員たちはみな二人は付き合っていると噂していますよ」
　休憩後の春樹の演技は素晴らしかった。まるで何かが乗り移ったかのようだった。
「神掛けて、俺は妻が正直だったらと思うし、またそうではないとも思う。俺はお前が正しいと思うし、また正しくないとも思う。俺は証拠がほしいのだ。妻の名は、月の女神ダイアナの顔のように美しかったが、今は俺の顔と同じく黒く煤けている。たとえ、縄、短剣、毒、火、窒息させる川の流れがあっても、俺はもうそんなものでは我慢できぬ。確かな証拠が欲しいのだ！」
　虹川が思わず右手に持った丸めた台本で左手を打った。
「春樹、できたじゃないか！　それだよ、その調子だ。それを忘れるな」
　その日の夕方の解散時に、美緒が真剣な顔つきで春樹に声をかけた。
「春樹、大事な話があるんだけど……」
「今日は疲れているんだ」
　春樹はそれだけ言ってその場を去った。