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十一日目の第四幕の稽古も難航した。オセロー役の春樹とイアーゴー役の獅子夫の掛け合いがうまく行かなかった。虹川は何度も春樹にダメ出しをした。
「春樹、第四幕第一場は、オセローがイアーゴーの言葉に完璧に騙され、デズデモーナに復讐する決意を吐露する場面だ。オセローの目に宿る狂気を表現するんだ」
虹川は十分の休憩を命じた。
司が飲み物を手に、左の隅にいる春樹の隣に来た。
「どうしました?」
「心の中に黒いものが湧いて俺を苦しめるんだ。だが、同時にあいつの真心を疑うのは俺の浅はかさの証明だと、もう一人の俺が言うんだ」
司は右の隅にいる獅子夫と美緒をちらりと見て、春樹につぶやくように言った。
「昨日私は見たんですよ」
「何をだ?」
「獅子夫さんが美緒さんを車で送るのを」
「それぐらいはふつうだろう」
「でも、気になったので、こっそり後をつけたんです」
「余計なことを……」
「お気に障ったのなら申し訳ありません。これ以上は見なかったことにします」
春樹の目には嫉妬の炎が燃えていた。
「いや、そこまで言ったのなら、話せ」
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