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その場にいた全員が拍手する。
虹川はその拍手を軽く制した。
「今回の舞台の成功は主役の水谷春樹君の力が大きい。春樹君、よくやった」
虹川は軽く春樹に向けて拍手を送った。場内の全員もそれに倣った。
春樹は得意満面で黙礼した。
虹川は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「春樹君、実は君にまだ言っていないことがあるんだ」
唐突な虹川の言葉に春樹の頭は一瞬混乱した。何の話なんだろう。
「劇団員たちが君に話しかけることが無くなったよね。あれは俺がやらせたんだ。オセローの孤独を君の体に染み込ませるために」
「ええっ」
「それと君に獅子夫君や美緒君と会話するなと言ったよな。オセローの役に成り切るために」
「ええ」
「すまなかった。きっと二人は君を冷たい人間だと誤解したと思う」
そうかもしれない、今日こそ美緒と話をしよう、と春樹は思った。
「だが、それだけじゃないんだ。司が君に獅子夫君と美緒君が付き合っていると密告したよな」
「ええ。でもどうしてそのことを……」
「俺が司に嘘を言わせたんだ」
春樹は慌てて司を目で探した。
司は会場の隅にいて、春樹と視線が合うと、体を小さくして目礼した。
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