オセローの孤独

9/11
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 その場にいた全員が拍手する。  虹川はその拍手を軽く制した。 「今回の舞台の成功は主役の水谷春樹君の力が大きい。春樹君、よくやった」  虹川は軽く春樹に向けて拍手を送った。場内の全員もそれに倣った。  春樹は得意満面で黙礼した。  虹川は悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「春樹君、実は君にまだ言っていないことがあるんだ」  唐突な虹川の言葉に春樹の頭は一瞬混乱した。何の話なんだろう。 「劇団員たちが君に話しかけることが無くなったよね。あれは俺がやらせたんだ。オセローの孤独を君の体に染み込ませるために」 「ええっ」 「それと君に獅子夫君や美緒君と会話するなと言ったよな。オセローの役に成り切るために」 「ええ」 「すまなかった。きっと二人は君を冷たい人間だと誤解したと思う」  そうかもしれない、今日こそ美緒と話をしよう、と春樹は思った。 「だが、それだけじゃないんだ。司が君に獅子夫君と美緒君が付き合っていると密告したよな」 「ええ。でもどうしてそのことを……」 「俺が司に嘘を言わせたんだ」  春樹は慌てて司を目で探した。  司は会場の隅にいて、春樹と視線が合うと、体を小さくして目礼した。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!