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十三
そこへ「ちょっと待ってください」と手を挙げる二人の女の声がした。そっちの方を向くと中村薫巡査と広瀬綾巡査が仲良く揃って立ち上がる。
「あたしたちもやばい情報仕入れてきましたよ~」
二人で目を合わせると、先に中村薫が前へ出てホワイトボードに何やら書き始めた。そして榊原玄武について語りだす。
「あれから北原事務部長とちょっと喋ったんですけど、その時、榊原玄武について面白い話を耳にしまして」
ホワイトボードを見ると玄武の横に新たな二人の名前が記されている。
一人は榊原とは切っても切り離せない宮本三郎の名前。ここでは後援会長という肩書で。
そしてもう一人が、現在の感染対策に異を唱えている吉田宗親の名前だ。いろいろな感染症が増える中、政府関係機関と特定の製薬会社、それに保健所だけしか詳しい情報を知り得ておらず、国民にはどれくらいの検査をしているのか不透明のまま発生数と死亡者数しか公開していないことへの不満。更に感染して死亡した者は即時火葬という人道的な配慮に欠ける行為に対して提言していた。以前の新型ウイルスから何も教訓を得ていないとマスコミに嘆いている。
ただ、今回、感染症センターを訪れた時に北原事務部長は駐車場でこの三人を見かけたというだ。それも仲良さそうに。
「なんか怪しくないっすかあ」
中村薫がここにも汚い金の臭いを感じると鼻をクンクンさせる。
「部長、アヤも違う情報ゲットしたんですけど」
今度は広瀬綾がホワイトボードに書かれた長沢渉の横に何やら書き始めた。
「長沢翔子、28歳。長沢渉の奥さんです。もともとここの看護師だったらしいんですけど……浮気性で有名だったらしいですよ」
こういう話には目がないんですという顔で広瀬と中村はまた目を合わせてニヤリとする。そして二人して親指と人差し指で丸を作り、「女は金と男で狂っちゃう時があるのよねえ」、「昼ドラ昼ドラ」なんて馬鹿な話を始めた。
穂香も確か長沢翔子と同い年。だとすると彼女たち二人は同期の可能性があるのか。あとで穂香から何気なく訊くのも悪くない。
「まあ47歳の旦那と28歳の奥さんなら、可能性もあるか。年の差カップルなうえに末期癌ときたら汚い金の臭いもプンプンするな」
部長もこういう話は好きなようで、二人の言葉に乗せられる。
「じゃあ面倒くせえが、三人の交友関係と怨恨の有無を洗い出してくれ。あと金の流れもな」
「了解!」
話もまとまり全員が席を立とうとした時、おもむろに前に出た加藤鑑識官が小さなビニル袋を取り出す。そしてそれをみんなが見えるような高さに掲げた。
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