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 穂香は看護師だから外の様子までは把握していない。不審者がいなかったか捜すには、やはり病院の受付業務を担っている事務職員に尋ねる方が一番か。先ほど穂香が言っていた高見直哉という人物、彼なら何か知っているかもしれない。  出勤時間が近づいて来たため、とりあえず鈴木隆史(すずきたかし)警部に連絡する。 「おはようございます、警部。今、俺、現場に来てますんでサボりじゃないっすから、よろしく」 「ああ、小栗か。佐藤から聞いて知ってる。非番だったのに悪かったな」 「いえいえ」  いつもは怖い鈴木警部なのに、今日は優しく労ってくれた。夜中に捜査本部を立ち上げ、警部もお疲れなのだろう。それに厚労省の役人の件もあるから、ピリピリしているのかもしれない。  ふとロビーのテレビに目をやると、早速成宮大学病院火災のニュースが報じられていた。死者を三人も出す大規模火災とマスコミが興奮気味に伝えている。成宮院長をはじめ北原事務部長がカメラの前で深々と頭を下げて謝罪しているのも映し出されていた。  死者三名のうち二人の身元を公開し、あとの一人は調査中との報告も。 「塩原のお嬢さんが巻き込まれるなんてねえ」 「ほんに可哀想にのう」 「でも、また怪しい研究してたって噂だぜ」 「ウイルス新薬で金持ちになったからって、調子乗ってんじゃねえよ」  外来で訪れた患者が塩原胡呂奈についてさまざまな意見も漏らす。地元の製薬会社だから知っている人も多く親しみを込めて弔う声も聞こえるが、その一方でウイルス新薬の開発成功に妬む人も少なくなかった。  以前一時この辺りでウイルスが蔓延した時は、シオバラ製薬が故意にウイルスをばら撒いたのではないかと噂されるほどに。タイミング良く新薬が出来たのも影響したのかもしれないが。  病院は通常通り一般外来受付が始まった。ただ受付横には感染症センター救急棟一時閉鎖のお知らせが貼られてある。 「すいません。こちらに高見直哉さんいらっしゃいます?」  警察手帳を見せて、自分は怪しい者ではないと証明する。  事務職員が何処にいるのか分からず、とりあえず総合受付なら大丈夫かと来ただけだから。それにしても受付嬢は大手企業並みに選りすぐられた可愛い女子ばかり。 「彼、夜勤だったんで、もう帰ったかもしれません。あ、もしかすると感染症センターにまだいるかな? 資料の搬出がどうのこうの言ってたんで」 「必要な書類は全部避難できたみたいよ。ナオくん偉いわね」  高見もどうやら自分の持ち場を守るために、あの暗い中、必死で書類を掻き集めていたようだ。それならまだ感染症センターにいるかもしれない。彼が帰る前に一言でも話が聞ければ助かる。
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