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十一章 泣き喚く
結局、そのまま中学校へは二度と行かなかった。啓子が亡くなったことでの喪失感によって心にぽっかり穴が開いたような空虚な気持ちになったからである。さらに啓子が自殺することになった一端が自分にもあったのだという罪悪感や、人を死に追いやった学校という奇怪な存在に対する強い怒りも行かない理由に含まれた。
あまりにも強く感情を揺さぶられるため、自分の気持ちと真っ直ぐ向き合えない日々が長らく続いた。
今、私は学校近くのあの公園にいた。
そこで啓子と会話したベンチに座り、二人で並んで見たオレンジ色に輝く夕日を眺めていた。
考えてみたら私のこれまでは喪失感だらけであった。
本来であれば大切に感じるはずであった母を失い…
父を失い…
兄を失い…。
私には死別こそ経験には無いが、これまで味わってきた生きている人間との関係による喪失感は、私を必要以上に萎縮させた。
無邪気に過ごした時間と、一人寂しく過ごした時間とのギャップが喪失感と言うものであれば、私はこれまで、この喪失感と懸命に戦ってきたような気がした。
行き場のない悲しみを我慢しても、気持ちは晴れるどころかますます大きくなっていき、終いには口が利けない私になってしまった。
そんな私に喪失感との『戦い方』を教えてくれたのが啓子であった。
難しく考えず感情のままに思いっきり笑うこと…。
そして感情のままに思いっきり泣くこと…。
気が済むまで思いっきり泣けば自然と気持ちが軽くなっていくと啓子は教えてくれたのだ。幼い頃から泣くことを叱責されてきた私は、閉ざされていた心が解放されたような気持ちになった。
啓子のおかげで…。
今ここに啓子が居たらこんな腑抜けな私にどんな言葉をかけてくれているのであろうか…。
いや、啓子が言っていたように手を差しのべてはくれないはずだ…。
そして、ただただ一緒に居て優しい笑顔で見つめてくれているに違いない…。
ほんのりと優しい香りがする花柄のハンカチを差し出して…。
それがどれだけ温かくて…どれだけ救われることか…。
啓子を失った今、ようやくわかった。
「啓子!……………
啓子!……………」
今…私は、啓子に教わった通りに感情のままに声を上げて泣き喚いたのであった。
そして今日…初めて啓子と会話したあの夕日が綺麗な学校近くの公園で、辛く悲しかった中学校の卒業を迎えた。
あの鉛筆を拾ってクスリと笑う啓子と一緒に…。
カラカラ~ン…
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