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 このビルか……。  うらぶれた路地にあるその建物を見上げ、篤志は不安が増してくるのを感じた。  話をしてみなければわからない。とりあえず、行ってみよう。それで法外な要求をされたら、持ち帰って考えればいい……。  そう思い、エレベーターに乗り込む。ドアが閉まる。目当ての階のボタンを押した。  その時――。  伸ばした篤志の腕を、後ろから誰かが掴んだ。  うわっ?!  背筋に冷たいものがはしった。自分以外、誰も乗っていなかったはずだが……?  「あっくん……」  懐かしい呼び名……。  「えっ?」  振り向く篤志。そこには、血まみれの男性が立っていた。着ているスーツはボロボロで、顔は痣だらけだ。  思わず握られた手を振りほどき、後退る篤志。  「お、俺だよ、あっくん。悟だよ」  「えっ? 悟?」  一瞬で、十数年前の悟の姿が思い浮かんだ。それを目の前の男性に重ね合わせる。確かに、目元などは似ているような気もするが……。  「ほんとうだよ。ほら……」  言いながら、その男性は少しだけ首を曲げ、顔を横に向ける。そして耳の後ろを見せてきた。  「ああ……」と溜息を漏らす篤志。  これは、俺のトレードマーク? いや、しるし、かなぁ?  昔そう言っていた悟。右耳の後ろに、三角形を成すように小さなほくろが3つあった。それが今、また目の前に……。
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