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 篤志の脳裏に、悟のこれまでのことも次々浮かんできた。  彼の父親はギャンブル好きで借金が耐えなかった。負けが込むと母や彼に乱暴した。小学生の頃、悟が虐められていたのは、いつも同じボロボロの服を着ていたり、痣やケガだらけで、見るからに惨めに感じられたからだ。  小学校卒業の頃、生活に嫌気がさした母は家を出た。悟は父に連れられ、取り立て屋から逃げるように引っ越していった。  しかし、悟と2人きりの生活になると、ますます父親は荒れていく。ついに悟は、売られるような形で裏社会の男に引き取られ、下働きさせられ、行き着いた先が太陽ファイナンシャルだったのだ。  「悟、辛かったんだな。教えに来てくれてありがとう」涙ながらに声をかける篤志。「これからやり直せばいいさ。俺、力になるよ」  しかし、悟は首を振った。  「もう、いいんだ。それより、竜ちゃんにお願いしたんだよ、あっくんを助けたい、って。そろそろ大丈夫かな」 チラリとドアの向こうを見る悟。  「え?」と怪訝な顔をする篤志に向かって、彼は続けた。  「ずっとクズみたいな俺のこと、優しくしてくれたのはあっくんと竜ちゃんだけだった。あの頃の想い出は、宝物なんだ。感謝してるよ。だから、最後に力になれて良かった。あいつらの悪事を告発することで、少しは罪滅ぼしになったかな? 俺、今度生まれて来るときは、普通の家で、普通の生活ができればいいなぁ……」  そう言いながら、悟は笑った。天井を見上げ、その先の星空に何かを願うような表情になる。すると、彼の身体が次第に消えていく。スーッと、煙のように……。  「悟っ! 悟!」  篤志が駆けよったときには、すでにそこには誰の姿もなくなっていた。
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