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「そろそろ行かなきゃ……」
篤志が言うと、恋人の彩名は不安そうな表情でジッと見つめてきた。
「話し合いが通じる相手だと思う? 悪徳業者かもしれないよ?」
「わからないけど、とにかく話してみないと。もしもの時は、警察に相談するよ」
「悪徳業者は、いろいろ弱みを握ったり逃げ場を塞いで、相手を動けなくするものだって聞くから、十分気をつけてね」
テーブルの上にのせた篤志の手を、彩名がぎゅっと握る。その柔らかさ、優しさを感じとり、篤志は胸が痛んだ。
彼女にこんな心配をかけるようになるなんて……。
数日前、篤志は会社の先輩から相談を受けた。いつもは逆にいろいろ相談に乗ってもらっている相手だ。だから、むしろその時は喜んだ。
新規に取引先となった企業が、資金繰りに不手際を出てしまった。一時的な問題で、すぐに解決できるものだが、太陽ファイナンシャルという金融関係の企業に相談し調整した。その際に、こちらの担当者として2人署名しなければならないので、協力してほしいという話だった。
今となってみれば怪しいが、その時は先輩のためならと考えて了承した。
しかし、その後先輩は姿を消し、なぜか書類上は篤志が多額の借金をした形になってしまっていた。
先輩が個人で騙したのか、取引先もグルなのか、わからない。とりあえず太陽ファイナンシャルという会社に連絡を入れ事情を説明すると、今後について話し合おう、ということになったのだ。
「帰りがあまりにも遅くなるようだったら、私、警察に連絡するから」
深刻そうな表情で言う彩名。
「うん。わかった。まあ、万が一の時は、竜ちゃんの贈り物を使うさ」
篤志が、重くなる雰囲気を払拭するように、フッと笑う。
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