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「勿論、そう話しましたが、それでは漱石先生を否定する事になると仰って…」
白井さんの溜息は床板さえも貫いてしまう様でした。
「頑固ですからね…。うちの先生は」
「誰が頑固だって…」
食堂の入口から先生の声がしました。
希世さんは逃げる様に厨へと入って行かれました。
先生は自分の椅子に座られると、
「希世さん。私にも珈琲を」
と大声で言われました。
希世さんは姿も見せずに「はい」と声を張って返事をされました。
「ど、どうですか、先生。講義の原稿は」
白井さんは珈琲カップを皿に戻して訊かれました。
「どうもこうも、先生に借りて来た資料が難しすぎてな。いくら帝大生でも、どれだけの生徒が理解しているのか…」
私と白井さんは「やっぱり」と言わんばかりに顔を見合わせました。
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