講説師匠

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「先生、漱石先生の講義を受けた事のある者を連れて来ました」 白井さんは食堂で煙草を呑んでおられた先生にそう仰いました。 「おお、それは有難い。ささ、どうぞ」 先生は串田さんを招く様に座れと仰いました。 私も自分の椅子に座り、挨拶を交わされる先生と串田さんを見ておりました。 「朝飯は食ったかな…」 先生は白井さんたちに訊かれました。 「いえ」 白井さんは「勿論」と言うかの様にはっきりと返事をされます。 串田さんは遠慮がちに首を横に振っておられました。 先生が目配せされると、直ぐに希世さんは動かれます。 多分、この人程、機転の利くお手伝いさんは存在しないのではないでしょうか。
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